恋愛SLG(1)
※何度も言いますが、骸つなです(笑)
『恋愛SLG』
「ほんとコレ、絶対面白いから!!やってみて沢田チャン!!」
なかば無理やり内藤ロンシャンから渡されたゲームの表紙は、やたら女の子ばっかりがきゃるきゃるした表紙だった。
家に帰ってきた綱吉は、おもむろに鞄からそのゲームを取り出した。
改めて手にとってしげしげと眺める。
今日はたしか自分の誕生日だった。
だったけど、プレゼントが 何か、 ギャルゲーって。
表紙にはパステルなカラーと美しい書体で「私立プリメーラ学園〜高等部編〜」とか書かれてある(初等部編もあるんだろうか)。
「………」
裏ッ返してみると、薄暗いフィルターがかけられた幾つもの、あられもない可憐な女子たちの裸体のカットが載っている。裏だけ見たら誰も学園ものなんてたぶん思わない。
興味がないわけではない。が、ここまであからさまだと、ちょっと。
「…これ、やらなきゃ駄目 かな」
シューティングものはすぐ死ぬ、格闘技ものも結構すぐ負ける(それ以前に技を覚える気がない)、RPGなど続かない根気のもとではもっての外、そのため普段はその場で終わるような音ゲーとかしかしない綱吉に、いきなりこのギャルゲーはちょっと濃かった。
「面白いって、どう面白いんだろう」
さっきから裏に返したり表にしたりしてみる。要するにエロゲーだろうか。エロにたどりつくまでにどれだけの障壁を越えて根気を持ち込まねばならないのだろうか。そうしてたどりついたエロは本当に自分の待ち望むようなエロなんだろうか。そもそも自分の待ち望むエロって何だ。
「まぁ…ものすごい絶賛してたみたいだしなぁ…」
いっちょやってみるか、と綱吉はゲーム機のスイッチをいれた。
ケースをあけると、ただのメタリックピンクのディスク。タイトルすら入ってない。
ずいぶんシンプルだけど、こんなもんなのかな、と思いながらディスクをセットした。
まもなくして画面に、さわやかな青空とミッションスクール的な学校が背景として現れて、「私立プリメーラ学園」と綺羅綺羅しい文字が現れた。
「わ、こんな感じなんだ」
次々とかわいい女の子が出てくる。それぞれに個性がありそうな雰囲気で、正直目移りする。
正直、ちょっとわくわくしてきてしまった。
これからこの女の子たちとどんなめくるめくイベントやハプニングが起こるのだろうか。
"ツナ君…、わたし……、"とかって顔を赤らめるとか、そんな展開になるのだろうか。
「わ…、ちょっと楽しみかも…」
知らずのうちに綱吉の口元がゆるむ。
だが、
オープニング映像が終わり思わずコントローラーを握りこんだ瞬間、いきなり画面がブレたように黒く暗転した。
「えっ?!何ッ?!」
故障?!と焦って綱吉がゲーム機を確認しようとしたが、画面には既に別のものが映っていた。
全体的に暗い色調、荒れた廃墟のようなビルたちが立ち並ぶ背景。
さっきまでかかっていたポップで可愛いBGMは、ハードで不気味なBGMに変わっていた。やたらドラム的な音が聞こえる。
「えっ、何これウイルス?」
思わずそんなボケた言葉を口走ってしまうほど、さっきと雰囲気が変わりすぎである。本当に同じディスクのゲームかこれ。学園はどこにいったんだ。
「なんで?なんで??」
辺りをムダにきょろきょろしながら困惑する綱吉の目の前に、再びタイトルが躍り出た。
『私立黒曜学園〜第三世代編〜』
「エッ、ほんとに何コレ?!」
しかも学園部分は残っているらしい。
「何で、ちょ、ロンシャン?これ何?」
意味のわからないゲームが勝手に始まり、どうしてロンシャンがこんなカオスな雰囲気のゲームを自分に寄越したのかもわからないし、この状況すらもよくわからなかった。
しかし戸惑っている綱吉を、更に試練が襲う。
"こんにちは、綱吉君"
いきなり画面に現れたのは、
「骸さん?! こんにちはじゃないよ!しかも怖ッ!声どうして本人のなんだよ!」
まさかのフルボイスである。
"ああ、驚かせてしまいましたか"
突っ込みをいれる綱吉などお構いなしに、画面の骸は優雅に腕を組む。
"駄目ですよ綱吉君、気配を消した人間の気配も、読めるようにならないといけないといつも言っているでしょう"
「何コレどういう設定?!何シミュレーションゲーム?!」
とりあえずこのゲームはおかしい。たぶん自分は悪い夢でも見ているのだろう。
もうほんと色々ありえねーだろ!と思い、メニューを出すべくボタンを連打する。
『 セーブ
ロード 』
「エッこれだけ?!これメニューじゃないよね既に!!」
終わらせる事ができない。元のタイトル画面にすら戻れない。設定画面すらない。
「これまだ作ってる途中のゲームか何かだろ!!しかもコレ続けろっていうの?!」
電源を抜くとかいう根本的な考えは、パニクった綱吉には浮かばなかった。
元来それはタブー事項である。
マジかよ、と思いっきり引き気味に座椅子に背を預ける綱吉などに構わず、画面中の骸は既にこちらに手など出している。
"さ、ここにいては危ないですからとりあえずあちらに向かいましょう"
「…やれってか。続けろってか」
はぁ、とため息をついて綱吉は座りなおした。
危ないからあっちに、とか何とか言われたが。
確かに背景からして何かしら物騒である。が。
「いやいや、骸さんについていったって結局怖くない?」
綱吉にとって一番危ないのはこの廃墟よりBGMより何より目の前の黒い男だった。
「でもどうなんだろ、こういうのって最初は応じておかないとゲーム先に進まないのかな…」
目の前の骸は今のところ、いわば水先案内人である。
ここでNOといえばたいていバッドエンドに直行…
「その手があったかー!!」
綱吉はゲームを始めてから初めて顔を輝かせた。
「そうだよ、ここでゴメンとか何とか言えば最短ルートでゲーム終われるんじゃん?!」
嬉々として綱吉は選択肢を出すべくボタンを押した。
するとそこには。
『 "うん"
"うん"
"うん" 』
「"うん"しか選べねー!!!」
コントローラーを放り投げた。
<続>