つぎ |

  恋愛SLG (2)  



せっかくの休日の時間を甚だしく泥棒されているような気がする。
ゲームの流れ上仕方なく、綱吉は骸についていくことになった。
「…あれ、二個目の"うん"を選んでたら実はついていかずに済んだ、とか、ないよな」

ただでさえ荒廃しきった画面だが、その中でも目立たない方へ、目立たない方へと骸は綱吉を誘導していった。
"ここは危険な場所だと何度も言いましたね、特に君のように儚くて壊れそうな人間は簡単に奴らの餌食になる"
「何、ほんとコレ何設定?」
奴らって何だよ、と思ってもそれを口に出せる選択肢すら出てこない。普通ここで聞かせてくれたりしないか?
しかしそのような選択肢など出ないまま、画面の骸はくるりと振り返った。
グン、と間近に顔が迫る。画面の端に三叉槍の切っ先が鈍く光る。
"この僕のような人間のね…クフフ、よくぞついてきてくれましたね"
狂気的な光をぎらつかせた眼が、まるで本物のように画面に迫った。
ぐあ、と三叉槍を振りかぶり…!
一瞬にして画面が暗転、赤い文字で「BAD END」と示されて背後からギャアアアー!、と人の叫び声が聞こえた。
一瞬バババッと何かの屍骸のようなグロ画像が画面を走ったのち、グヂャッという鈍すぎる音とともに画面が真っ暗になった。

「……ッ、………ッ!!!」

ひやりとした手で心臓を鷲づかみにされたかと思った。
いや、クラッシュした氷の中に心臓をそのまま突っ込まれたような感覚に落とされた。
息の根が止まるかと。
「こ…っ、」
怖いんですけど!!
たとえゲームといえど、奴に狙われたらひとたまりも無いような気がして、はぁはぁと暫く綱吉は自分を落ち着かせるように息をついた。
「何あれ……、何アレこえぇえーー!しかも何あのグロい映像…!」
サブリミナルを狙うにしては一瞬の時間が長かった。まるでこれでは嫌がらせである。

「ま…、まぁいいや、これで一応ゲームは終わったし"さ、ここにいては危ないですからとりあえずあちらに向かいましょう"


『 "うん"
  "うん"
  "うん" 』

「……やれってか!!続けろってか!!!」

BAD ENDになった筈の画面には、先ほど見た理不尽な選択肢が勝手に映っていた。
「俺こんなとこセーブした覚えもロードした覚えも無いのに!!あまりにも親切だね!」
やり直せとでも言うのだろうか。

まさかとは思うが、この"うん"は違いがあったようだった。
「それなのに何だよこの選択肢の不親切さは…、どれ選んだらいいのかまったく判んないよ」
知るか、と言わんばかりに適当に二番目を選ぶ。
"もう千種達は先にアジトに戻っています。君もこんなところでぶらついていてはいけませんからね"
するとどうやら今度こそ本当の仲間らしい台詞が出てきた。
「うわっ、マジで違いがあったんだ…」
しかしながらこの"うん"が間違っていてはまた二度手間となる。ここでセーブしても仕方ないかもしれないが、とりあえず綱吉は"セーブ"と"ロード"しかない画面を再び出した。
「一応セーブしとこ…うわ…っ、セーブできる数多いな!!選択肢ほとんど無いくせにどこでセーブしろっていうんだよ!」
何回も画面を切り替えられるほどに、これでもかというほどセーブ用のスペースがある。
まさかやたらたくさん出てくるスチル画像用だろうか。先ほどから、通常の立ち絵を押しのける勢いで無駄に(骸の)スチル画像が多い(その一枚絵達のせいで進行が遅い)。
とりあえずセーブをして、元の画面に戻る。
"そうそう、千種がね、おいしいキノコスープを用意して待ってくれているそうですよ"
「キノコスープて」
まるでそれでは、キノコスープが唯一にして無二のメインディッシュのようである。戦時中か何かか。
あまりに乏しそうな食事に思わず綱吉は突っ込んだ。
しかし、キノコスープは無いだろ、という突っ込みが脳内から消えない綱吉の目に、伏線不明の選択肢が飛び込んだ。

『 "やったあ!キノコスープだあ!"
  "もうお腹ぺこぺこだよ、早くキノコスープ食べたいな"
"俺のぶんまだ残ってるかなあ" 』

「だからこれ選択肢って言わないから!!これ普通につなげて一つの文になるだろ!何この俺のテンション、俺どんだけキノコスープ食べたい人なの?!」
しかしながら、選ばない事には先に進まないので、欠片ほども思っていないが"俺のぶんまだ残ってるかなあ"という選択肢を選ぶ。
テンション低めの選択肢を選んだのは、綱吉のせめてもの抵抗である。別に無くなってればいいよキノコスープとか。

しかし画面の骸は、綱吉が苦し紛れに選んだ選択肢など聞こえなかったかのように立ち止まって振り返る。
"でも綱吉君、その前に―――"
「んっ?」
BGMが、荒廃気味な音楽からジャズのようにムーディーな音楽に変わる。
更に必要なさそうな骸アップの一枚絵が現れる。

『骸の指先が綱吉の頤に触れた。ひやりとした指先が、心地良い。』

"綱吉君…、僕、少々抑えがきかなくなってきました"
もどかしさを含んだ表情をした骸が、自らの首元の服をクシャリと鷲掴む。

「ちょ、え、何コレ?!え?!キノコスープの選択肢でアレ選んだらこんな事になっちゃうの?!ちょ、いやだいやだいやだ!!」
何やらイベントが発生してしまった。後戻りがききそうにないので、はやく進めてしまおうと綱吉はボタンを連打する。
するといきなり画面に選択肢が出てきて、通り過ぎていった。

『 ⇒"逃げる"
"腕を回す"
"シークレットモード" 』

「えっ?!あっ、ちょっと!」
"やめてよ骸さん!!"
ボタンを連打していたためそのまま一番上の"逃げる"を押してしまった綱吉は、画面の中で骸を突き飛ばして逃げ出した。
「待って今普通に通り過ぎちゃったけど三個目の"シークレットモード"が物凄い気になる!!何だったんだアレ!!」
しかしながら長らくセーブしていないので戻るのも恐ろしい。何だかこのゲームは、たとえ同じ選択肢を選んでもとんでもない方向に話が進んでいきそうで、やり直す気になれないのだ。
「…まいっか、あの変なのから逃げれたしな…」
"変なの"呼ばわりされた骸から逃げた綱吉は、あまりあてもなくぶらぶら画面の中を彷徨っていた(綱吉が動かしているとかではなく、ただ勝手に)。
「次はもうちょっとマトモなキャラに会って、ちゃんと話を進めよう…」

道を右に曲がったり左に曲がったりしながら進んでいく。
次会うキャラが居るとするなら、もうちょっとマトモなキャラがいいな、と思いながら進んでいく。たとえば、山本とか。
そして道を左に曲がったところで、

"ああ綱吉君、奇遇ですね"

「ぎゃあ?!」

何故か再び骸が出現した。
何事も無かったかのように、にこやかに手を掲げて振っている。
"まさかこんなところでお会いできるなんて思いませんでした、さ、行きましょうか"
「あ…、あと尾けられた!!」
知らず、体がガクブルと震える。
それにしてもこの骸は、先ほどからいったい綱吉をどこに連れて行こうというのだろうか。この強引さ。まるでこれではキャッチセールスかヘルスの客引きのようだ。
しかも先ほどのトラブルがまるで無かった事にされている。
「これなんか絶対バグってるよね?!」
しかしそんな綱吉を置いてけぼりにして、選択肢は出てくる。

『 "うん" 
  "どうして骸さんがここに?"
"ごめん、急いでるんだ" 』

「あ…っ、でも断れるんだ!!」
ぱぁっと顔を輝かせて、綱吉はボタンを押した。

"ごめん、急いでるんだ"

すると画面の骸の表情が一気に暗くなった。

『骸は哀しそうな目で綱吉を見つめている』

『 "うん、一緒に行くよ"
"俺でいいんなら…"
"仕方ないなぁ" 』

「これよく見なくても選択肢無いのと一緒だよね?!何、"俺でいいんなら…"って!!」
またこれからとんでもない展開になっても困る。もう遅いかもしれないが、ここでセーブする事にした。
「ちょっと待ってよ、勝手に進まれる前に…、」
相変わらずセーブとロードの画面しか出てこないメニューを出す。
しかしボタン操作をあやまって、ロード画面を開いてしまった。
「あっ、間違えた!もう、こんなところで時間くってる暇なんて無いのに!」
しかし、はやく戻るためボタンを押そうとする綱吉の目に、セーブした覚えのないロードデータが飛び込んだ。
「あれ…っ?何だこれ、セーブした覚えないのにデータがある…」
その画面は薄暗くてよく判らない。もしかしたらエンディングに近い場面なのだろうか?
「でももしかしたら…、」
今の状態よりは進んだ状態かもしれない。ということは早く終わる事ができる。
「よし、こっから始めよう!何かよくわかんないけど、よかったー」

データを、ロードしてしまった。


<続>
つぎ |

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