玩具店

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  初めてでしたら(4)  






「い、今、名前呼ぶんじゃ駄目なんですか…」
縋るような視線で、綱吉は骸にやっとまともな言葉をかけることができた。
そんな綱吉の顔の輪郭を、両手でそっと包むようにしてから骸は淡く微笑む。
「別に、今まるで恋人のように呼んで貰っても構いませんけど、ちゃんと達く前にも呼んでくれないと」
捕らえられた両手の平の中で、綱吉は小さく首を横に振る。
あんな自我を喪失しそうな刺激の中で、まともに名前なんて呼べる気がしない。
呼ぶ暇を与えてもらえない。
心底弱り果てた綱吉の頬を、片方の手がそっと撫でた。
「――じゃあ、こうしましょうか。君が達きそうだと思ったら、僕は君に呼びかける。もしくは君の名前を呼ぶ」
それだったら、答えやすいでしょう?と宥めるような声音で告げられる。
「名前を……」
いつの間にかこの訳の判らない決まりごとにすっかり囚われてしまっているという事にも気付かず、綱吉は骸の言葉を繰り返した。
「そう。……君の名は?」
頬を撫でていた手が首筋に下りて、首筋を絡めとるように撫でていく。
その感覚に、綱吉は小さく吐息を震わせた。
「つな…っ、よし…」
「ツナヨシ。……漢字は」
首元から鎖骨、肩を這うように指が下りていき、段々と綱吉の呼吸による胸の上下が大きくなってくる。
「た、手綱の…、綱、に、ヨシは…」
「吉原のヨシ、染井吉野のヨシ…?」
ローションがまだ残っている胸元に手が下りてきて、微睡むように乳首をコリ、と捏ねられる。
「ん…ッ、はァ…っ、そう、です」
「――じゃあ、」
ふいに乳首を弄る手を離され、思わず綱吉は骸を見た。
片手には、ローションと精液に塗れたローター。
「っあ……、」
アレを直に局部にあてられる快楽を予想して、怯えたような気持ちと甘い痺れを伴った緊張が綱吉に走った。
ブルリと身体を震わせる綱吉を見て、艶やかな笑みが骸から零れた。
「次は、忘れないでくださいね」



はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、

信じられない、というふうに綱吉が目を見開く。
「おやおや、まだ何もしていないのに、今からそんなでは意識を失ってしまいますよ…」
クスクスと笑いながら骸は、ゆっくりとローターを綱吉の竿に固定していた。
黒のバンドのようなもので固定されたローターは、少々の振動では落ちないほどぴったりと竿にくっついている。
ローターからのびるコードの先には、強弱を調節する小さなコントローラーがつながっている。
逃げられない。本当に逃げられない。
あのスイッチをスライドされたら…、本当に最後まで追い詰められて気を失ってしまうかもしれない。
ゾクリとする恐怖のような感覚に、綱吉は自然と息を荒げていた。ドクドクと、さっきから心臓の音がうるさい。
「……こ、こわ…、」
自分がどうなるかわからない。
搾り出すように紡がれたその声に、骸は柳眉を下げて笑んだ。
「大丈夫ですよ…、少し気持ちよすぎて死ぬかもしれないだけです」
そっと綱吉の髪を撫でる。まとわりつくような指に、背筋が粟立った。
本当に死んでしまいそうだ。綱吉はいやだ、いやだ…、というように首を横に振るが、それを無視するかのように骸は更に別の器具を出してきた。
「そうそう…、せっかくだから、これも使いましょうか…」
小さな円がふたつ。その円それぞれからコードが伸びて、強弱を調節するようなローターと同じコントローラーがつながっている。
「な…っ、それ…ッ!んん…っ!!!」
綱吉が喋りかけた瞬間、ウ゛ーー…、と下肢のほうのローターが低く振動しはじめた。
うめき声しか漏らせなくなった綱吉の乳首それぞれに、先ほど手にした器具の円をあてがい、固定する。
既に濡れそぼっている乳首や陰茎に、骸は更に先ほどのローションを垂らし、塗りこめた。
ハァ、ハァと胸を大きく上下させながら下肢からのゆるいローター刺激に耐えている綱吉を、目を細めて見る。
「下と上と…クフ…、どうなっちゃうんでしょうねぇ…、ああ、考えるだけでゾクゾクしますよ…」
骸は手元の二つのコントローラーに親指をあてがい、ぐっ、と力を入れる。
「ら、だめ、待って、おねがい、まって…、だ…っ、い゛ああぁあっ!!ひぃっ!」
ビイィーーー!!
(上も下もいっぺんに――!!)
びくんびくんびくんッ、と白目を剥いて玩具のように跳ねる綱吉の太腿を両腕で押さえつけて、はああっと骸は悦楽の混じった吐息を漏らした。
「すごい…っ、ここまでとは…」
しかしすぐに段々と三点のローターの強度を下げて、ゆるゆるとした振動に抑える。
「は…あっ、ふぁあ…っ、」
亀頭先端の鈴口をヒクつかせながら、ぴく、ぴく、と綱吉は身体を震わせる。
先端から溢れ出た透明な液体が、先ほどから勃ちっぱなしの竿をつたってマットに染みを作っていた。
胸の乳首は痛いほどに紅く張り詰めて、ローションによっててらてらと光っている。
それを見ていた骸の頬が、微かに上気していた。
「クフ…ッ、そそられて仕方がないんですけど。ねぇ」
上げた口角を綱吉の唇に寄せ、食むようにキスをする。ちゅ、くちゅり、と唇も舌も口蓋も、全て捕食するような侵食性のある。
食われる。侵される。すべてとりこまれる。
「ん…、く、…っふぅ…ッ」
涙でぼやけた視界を開けると、爬虫類のような鋭い眼がまっすぐこちらを捉えていた。
ああ。呑まれる。
いや、食虫植物につかまったような感覚。
頭から融かされて捕食されるような幻覚を感じて、ぐらりと一瞬、綱吉の意識が飛びかける。
その意識を、再び強くなってきた刺激が引き戻した。
「ヒいぃい…ッ!」
ビイイーーー、という強烈な痛みすら感じる刺激に、ぼろり、と綱吉は涙を零した。
痛いほどに快楽が襲って、限界といっていいほど陰茎が張り詰める。
逃げたくても下肢を固定されているため逃げられない。
脳髄を痺れさせるような快感に、ぶるぶると耐えるがおかしくなりそうだった。
「し、しぬ、しぬぅ…っ!!」
泣きながら、綱吉は縋るように骸の腕をつかんだ。
「イきそうですか?」
くちゅ、くにゅり、と遊ぶように骸が綱吉のドロドロに濡れた鈴口を弄る。
「ひきぃい…っ!あふッ、あ゛っ、」
ビクンビクンと背中が跳ねる。声は言葉にならずに、ひっきりなしに口から唾液とともに漏れ出る。
「じゃあ、……綱吉君。約束ですよ。僕の名前を、綱吉君」
「ふ、ふっう、んあ゛ッ、あッあッ」
只でさえローターの刺激で震えているのに、さらに指で刺激を加えられ、足先まで凶悪な快感が痺れるように走る。
「きもひ…っ、きもち…っ」
イく。イキそう。飛びそう。
地獄まで続きそうな快楽に、あと少しで意識が飛びそうな快楽に、だらしなく開いた綱吉の口からはうわごとのような言葉しか漏れない。
「…このままでは、呼べませんか…」
すると突然、ウ゛ーー、とローターの振動が弱められた。
「…っ、あ…!」
突如、さざ波のようにひいていった刺激に、ひどく物足りなさを感じて綱吉は骸を縋るように見た。
「…名前、呼んでくださいって言いましたよね。それとももう、やめにしますか」
ここまで昂ぶらせておいて目の前の快楽を取り去ろうとする骸に、必死で綱吉は首を横に振った。
「や…、だめ…、よぶ、よびます、から、名前、よびます、から」
「…僕の名前、覚えてますか?」
「むくろ…、骸さん、骸さんです、覚えてますから」
言い縋る綱吉に嬉しそうに目を細めてから、骸は綱吉に顔を近付けた。
「そう…、そうです綱吉君。…じゃあ、ちゃんと僕の目を見て、僕の首に手をかけて…そう、いい子ですよ…」
骸の指示に、快感に朦朧とした意識で綱吉は素直に従った。
ほぼ綱吉に覆いかぶさるように身体を上から重ねる骸の首に、腕を伸ばして回す。
お互いの瞳しか映らないような至近距離で、吐息が互いの肌を愛撫するような至近距離で、骸は恍惚とした笑みを浮かべた。
そして、コントローラーのスライドを強にしていく。
どこかに消えそうだった快感が、再び熱を伴って綱吉の全身に戻ってきた。
刺激だけでなくて、自分の存在全てを捕らえて悦楽とともに捕食しそうなこの男の目も、綱吉の快楽を追い立てていた。
鈴口から溢れた液が、トロリと腹にも伝い落ちる。
ビイイーー、と振動を無機質に続けているそれが、綱吉の快楽を限界までひきずりだす。
「いぎぃ…ッ、だめ、だ、ああ、ひい いい」
搾り取られるような快感に足先がブルブルと震える。間近の骸さえ視界に映さないほど喉が反らされる。
その喉を、骸の口が咥えた。
「綱吉君」
名前を呼ばれた。
舌で首筋をたどり、耳朶を食む。
陰茎へのローターで下肢と腰が痺れて、乳首へのローターで上半身が痺れる。痺れて、善すぎて、死にそうだ。
コントローラーを最強のまま放り出した骸の指が、綱吉の陰茎を睾丸からなぞりあげた。
「ひぐ…ッ!」
更に親指で鈴口を、ぎりっと引っ掻くように回した。
「きゃひィッ!!」
ずちゅじゅぷと鈴口をいじりながら、激しく振動を続けるモーターと陰茎をギュウと一緒に握りこむ。
(イ―――――!!!!)
限界まで喉をそらし、眼球が反転するほど脳が揺れた。息が消えた。意識が―――
「綱吉君!」
もう一度名前を強く呼ばれて、ひゅうっと綱吉は息を吸い込んだ。
「む……っ、むくろさん!!むくろさん!!むくろさ…ァアッひ…!!」
「ああ……、綱吉君…っ」
全身が硬直する。ぎゅうと骸の首にかけた腕に限界まで力が入る。ひときわ強く腰が跳ね、一瞬意識が白く飛ぶ。
ビュクビュク、ビュクン、と長く白濁が撒けられた。
綱吉の腹部、胸、首元にいくつもビチャビチャと精液が勢いよく飛び散る。
急激に力が抜けて、骸の首にかけていた腕はバタリとマットに落ちた。


しかし、握りこまれた陰茎のローターは最強のままだった。
一度達してヒクついている陰茎を、間断なく再び攻め立てる。
「や、ヒィ…ッ!!とめ、とめて、もう止めて」
泣きながら骸を引き剥がそうとする綱吉の手を、骸の手が捕らえた。
「いいじゃないですか、もうちょっとぐらい。すごく君、悦かったですよ…」
「よ、呼んだのに…、名前よんだのに…!」
約束が違うと、泣きながら首を横に振る綱吉の顎を捕らえ、指でなぞりながら至近距離まで顔を近付けたままで囁く。
「…興奮しましたよ、これ以上なく。…あれ一回きりだとは、誰も言ってませんよね。何度でも僕の名前を呼んでいいんですよ、綱吉君」
片方の手が、リズムをつけて遊ぶように陰茎のローターの強弱を上げ下げする。
「か、かえして!かえしてぇえッ!っひ、もうい…ッ、や…!」
半狂乱で綱吉は骸から離れようともがくが、力の入らない手足はまるで意味をなさずに蠢いた。
そうこうしている内に、再び足の先も指の先も痺れるような感覚が襲ってくる。
ローターによる強すぎる快感の波が綱吉の理性も何もかも、根こそぎ奪い取っていこうとする。
ガクガクと手足を震わせながら、綱吉は再び白い喉をそらした。
「ア゛――――ッ!!!」








目を覚ますと、見知らぬ天井が目に飛び込んだ。
(?!)
ここは何処だ、と焦って周りを見渡すと、そこは昨日散々弄られたその部屋だった。
昨日のマットの上に横になって、毛布がかけられている。
更に衣服が、整えられている。
「これは……、」
あれは、もしかしたら夢だったのかもと思いながら綱吉は起き上がった。
しかし。
(うぁ…、)
陰茎の先がすぅっと冷えるような感覚と、未だ拡げられているような先端の違和感に綱吉は顔をしかめた。
身体は綺麗にされているのに、陰茎の部分だけ拭かれていない。
(あいつ……、ほんと最低だ…!!!)
店長だろうが何だろうが知ったことではない。苦々しく顔をしかめながら、綱吉は立ち上がった。
二度とこんなところへ来るもんか。
未だガクガクして力の入りきらない下肢を叱咤しながら、綱吉はなるべく急いで外へと出た。
既に日が昇っている。
「…今日、休みでよかった…」
疲れ果てたように呟いてから、ふらふらと家へと帰っていった。







―――一方、スペースの限られた狭い部屋の中で、小さなモニターを頬杖をついて眺めながらニヤついている男がいた。
「あーあ…、綱吉君…おっちょこちょいですねぇ…」
肩を小さく震わせてクフフフ、と笑う。
「まぁすぐには気付きませんよね、こんな忘れ物」
そう口角を上げる左手には、カード式の学生証。
昨晩穴が開くほど見つめた綱吉の、顔写真がついていた。
「別にお金を取ったりしてるわけじゃないですからね。ちょっとした、忘れ物ですよね」
クハッ、と、可笑しくてたまらないという風に破顔する。

そのまま足早に出て行く後姿を、名越惜しげにモニター越しに指でなぞりながら、骸は小さくため息をついた。
「さあ…、次に会えるのは、いつでしょうね」
だが、布石は敷いた。あとは、相手がひっかかってくれるのを待つだけ。
いや、既にひっかかった相手が再び寄せられてくるのを待つだけ。
っク…、と再び笑い声を漏らす。クフフ、クフ、クハハ!と一頻り笑ってから、骸は髪をかきあげてもう誰も映っていないモニターを見つめた。
「…また逢いましょう、綱吉君」

お待ちしていますよ。










<初めてでしたら>終





綱吉の名前呼びすぎな店長
実は綱吉の名前知ってた店長
つぎ |

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