玩具店

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  初めてでしたら  





 部屋に入った瞬間、すぐに暗闇に目が慣れず、実際には真っ暗というわけではないのだが綱吉はクラリと眩暈がしたかのように感じた。
何かにぶつかってよろめいた綱吉を、意外としっかりした腕が支えた。
「うわ……っ」
「おっと。気をつけてくださいね。転びますよ」
「す、すみません……」
頭を下げてから、まだ見えないものの綱吉はキョロキョロとあたりを伺いだす。
「あの…、電気って… …あ、コレですか?」
かろうじて見え出した、電気のスイッチのようなものに手を伸ばすと、何故かその上から手を掴まれ、阻まれた。
「い、痛…」
「そんなものつけなくても、」
相手の声がワントーン低くなったような気がした。
(え…?)
「見えませんか?ほら、少しはここも明かりがあるんですよ」
(あ…)
明るい声音で告げられてもう一度辺りを見回すと、たしかに、部屋の隅の何箇所かに明度の低いライトが置いてある。
まるでバーか何かのような暗さだ。部屋が全体的に、ほの赤い。
(?に、にしても…、何か、棚に随分色々道具があるような…)
慣れてきた目を凝らしながら部屋の中を見回していると、クフ、という笑いとともに楽しげな声が投げかけられた。
「それにほら、あんまり明るいと恥ずかしいでしょう?」
「そ、そうですね…」
たしかに、こんな商品の説明をどんな顔して聞けばいいのかわからない。
だが、暗かったら暗かったで余計いかがわしいような気がして恥ずかしい。
第一、これでは―――
「でも、これだとあんまり商品が見えないっていうか…、道具だけあっちの明るいほうに持ってって、説明してくれても…っ」
店長だという男を振り返った綱吉の言葉は、急に途切れた。
男の手が、いきなりフワリと綱吉の片頬を撫でたからだ。
「あぁ、君がそう望むならそれでも僕は構わないんですけどねぇ、最初は、コッチの方がいいと思いますよ」
「え…?」
何なんだろう先刻から。
どうしてこの男はこんなにもさっきから楽しそうなんだろう?

「ほら、だって、これから試すんですから」

耳元でいきなり低く囁かれた声に、ゾクッと背筋を駆けるものを感じ、綱吉は身を震わせた。
何拍か遅れて、今耳にしたことが信じられずに綱吉は視線だけすぐ横の相手に動かした。
「……え。た、めす、って…」
「最初ですから、簡単で小さなオモチャからはじめましょうか?」
鬱蒼とした笑みを見せながら、カチャ、と音をいわせて男は何かを片手に掲げた。




ヴーーー…、というモーター音が室内に響く。
「――最初はね、こういうところから、慣らしていくんですよ」
寛げられた上半身の服の下にある素肌に、掌におさまるほどに小さなローターが這うようにあてられた。
鎖骨から、うねるように薄い胸板へ。
「ひ……っ」
何をされるのかわからない恐怖とローターがもたらす粟立つような感覚から、浅い呼吸でひくついた声を出す綱吉に、相手はうっとりするような笑みを浮かべた。
「ああ…、そんなに、こわがらないで。気持ちいいことを、するんですから…、もっと、力を抜いて」
無理、というように涙目でふるふる首を横に振る綱吉に、相手は笑みをいっそう深くした。
口角が上がるのが見えたとき、、ローターが既に張り詰めている乳首に触れた。
瞬間、ローターの強弱スライドが限界まで上げられる。
「はあぁああッ!!っぁ、っあ、ひやぁあ!」
身を激しく捩って快感とも痛みともつかぬ刺激から逃れようとしても、背中は既に壁につけられていた。
更にその下の腹部にローターを這い下ろされても、身体を跳ねさせる刺激は止まない。
「やーーっ、やめ、くだ、さ…!!」
縋るように相手の腕を力なく掴んでも、相手は笑ったまま首をゆるやかに横に振るのみ。
「何を言ってるんですか、まだ始まったばかりじゃないですか…ほら、もっとちゃんと上から味わわないと」
再びローターが胸元に戻される。ビリビリするような過ぎた刺激に、魚のように背中が跳ねる。
「ぃあっ、ァあッ、!や、やめ、おねが、やめ…!」
「ああ、そうそう、気持ちいいときはちゃんと気持ちいいって言ってくださいね、そうしないと、」

強くしすぎちゃうかもしれませんからね、

と耳元に顔を寄せて囁かれる声音にぞくぞくぞく、と皮膚が粟立つ。
空いてる方の手で手遊びをするように首元や耳、こめかみあたりの髪をあそばれる、その感触にすら吐息が漏れる。
既に強すぎる感覚にまともに話せない。まるでそれが判っているかのように、相手はくふふふ、と忍び笑いを漏らし、まぁ言っても、無駄でしょうけどねと呟いた。

再び腹部を撫でるようにローターを這わせられ、少し刺激がおさまったことで、綱吉はは、は、と息をついていた。
唇が既に乾燥している。喉も、乾燥でひくついてきた。
「も…、わかりま…、たから、いいです…」
「ああ、イイんですね、でもまだこれからですよ」
絶対わかってて言っているであろう相手に、違う、そうじゃないと、弾かれるように抗議の眼差しを向ける。
が、ぞっとするほど鬱蒼とした笑みを見せる相手に一瞬綱吉は何も言えなかった。
「おやおや、僕とした事が唇が乾燥してるのに気付かなくてすみません…」
呟いた後にそっと頬に手が添えられたかと思うと、生暖かくやわらかいものが自分の唇をねっとりとなぞっていた。
「ふ……っう!」
綱吉の目が見開かれ、何をするんだと口を開きかけた瞬間に、ぬらりとした唾液と共にそれが腔内に侵入してきた。
「ん…っ、ふ、っぐ」
思わず膝を曲げそうになり、相手の腕をぎゅう、と掴むと相手の口角が僅かに上がり笑みが漏れたような気がした。
「…座りますか…?これからもっと、立っているのがしんどくなるでしょうからね…」
足元近くに、ゴム製のような弾力のあるマットがある。
支えられながらそれに崩れ落ちた瞬間、綱吉の中でも何かが崩れ落ちたような気がした。


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