大学生パラレル

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  であいK (1)  

二人とも大学生(とかぶっちゃけ関係ないけども)のパラレル




綱吉は、ちょっとソワッとしながら携帯に届いたメールをチェックした。
最近よくニマニマしており、周りの友達には少々ウザがられる綱吉である。
携帯をあけると、「件名:そうなんですか!すごいなぁ〜」というメールが。
今日何通目かのメールである。メールの内容は、ごくほのぼのとした日常生活のことや趣味のこと。
まだハンドルネームしか知らないが、とても感じのよい女の子である。
「ほんと、最初ロンシャンがおせっかいしたときはどうしようかと思ったけどなぁ〜…」
綱吉の同級である内藤ロンシャンが、以前(彼としては本当に)好意で勝手に綱吉のことをとある出会い系のサイトに登録した。しかも本名で。
最初は見知らぬ人間からメールがきて素でびっくりして、迷惑メールと疑うこともなく「間違っていますよ」と返事を返したらば、意外に雰囲気のいい「間違ってはいなかった」お返事が返ってきた。
今ではその相手とフワッフワなメールのやりとりが続いており、綱吉は相手に非常に親近感…もとい、恋情を抱きつつあった。
控えめなメールの文面、少しかわいらしい雰囲気。
一人称が「僕」なのが逆に可愛いと思った。
『自分で自分のこと”僕”って呼ぶのも何なんですけど、
こう呼ぶのが慣れていて。』
と、少しはにかんだ顔が見えるようなかんじだった。いいじゃないか、女の子で「僕」ってのもかわいいぞ。
会ったらどんな感じなんだろう、きっと可憐な感じじゃないかな。
と、好き勝手に綱吉はほのかな妄想をめぐらせていた。ただの綱吉の好みの雰囲気の女性が脳内に具現化しているだけなのだが、いかんせん突っ込める人間はいなかった。


そんなわけで今日もメール、メール。
心弾むような文面をゆっくり読みすすめる。
若干ゆるんだ顔でメールの文面を追っていたが、ある一点で綱吉の目が大きく見開かれた。
「え……ッ、まっ、マジで?!」
その画面には、以下のような文章が。
『…(中略)…なので、もし綱吉君の都合がよろしければ、
今度の日曜日、一緒に遊びにいきませんか?
前話していた、僕のお気に入りを紹介したいと思います。

最初は会う、といったのは不安かなと思ってたんですけど、綱吉君なら大丈夫だと思いました。
安心して、僕は会うことができると思います』

「う…っ、うわ…っ、うわ…っ!!」
ぎゅうう、と携帯を握り締める。
(何だろう、俺信頼されてるんだ……!!出会い系からスタートしちゃったのに!)
まわりくどめの文章に眉をひそめることもなく、新興宗教にハマりでもしてしまった人のように綱吉は素直に感動していた。
「も、勿論だよ、大丈夫だよ!」
早くもそう叫びながら、綱吉はニコニコと返信メールを打ち始める。
(っていうか、わ、会えるんだ……!!)
気持ちのテンションが上がるのに任せて、文面をはじめた。

『ムクちゃんへ。俺は全然大丈夫です。誘ってくれてありがとう。
じゃあ日曜日は……』

メールを打ち終えると、携帯を閉じてニコニコしながら綱吉はベッドに寝転がった。
待ち合わせ場所もだいたい決めた。
そういえば電話したことないから声も聞いたことないな。どんな声してる子なんだろう。
会った時の楽しみが(綱吉の脳内では)いっぱいで、その日は寝るのに時間がかかった。



待ち合わせ場所は意外に近くで、聞けばムクちゃんの家もそんな遠くにないという。
(なんだ、こんな近くに住んでたのかぁ〜)
あたりは静かな住宅地で、その住宅地のなかには洒落たデザインのアパートが何軒かある。
少しはそのあたりの地理がわかっている綱吉は、まさかあのアパートにいるのかな、いやいや、なんて思いながら指定されたカフェへと向かった。
こじんまりとしたカフェだが、庭や店内のすみずみまで配慮の感じられる、静かなカフェである。
店内にはぽつり、ぽつりと客がいるだけで、流れる空気はおだやか。
どうやらまだムクちゃんは来ていないようである。
席について、メニューを追うも綱吉の頭はちょっとそれどころではない。
(わ……、なんか、緊張してきた…!!)
オーダーを取りに来た店員に「あ、あとでもう一人来るので、そのときにお願いします」と言うのすら、少し恥ずかしさを覚える。
(だいじょうぶかな、俺ちゃんと話せるかな、会って幻滅されたりしないかな)
そわそわと落ち着かなさげに視線をさまよわせる。
(すんごい可愛い子だったらどうしよう、俺なんかもったいないよ!!)
ぎゅーとメニューを握って目を瞑る。もったいないと思いながらも引き下がる気はゼロであるところが、彼の地味に図太いところである。
(あームクちゃんってどんな飲み物注文するのかな、かわいいけどスッキリした飲み物も好きそうだし、なんか上品だから…なんだろ、紅茶とかの欄に載ってるアールグレイ ティー、とかかな)
僅かに知っている紅茶の名前を目で追いながら、どんどん想像をふくらませていく。
綱吉の脳内で、お互いの手が触れ合って一瞬甘い空気が流れたところで、携帯がメールを着信した。
「あ……!!」
急いで携帯をあけると、そこにはムクちゃんからのメールが。


『もうすぐ着きます』


「う……っ、」
(うわぁ、うわぁあ!)
バクバクしてきた心臓をおさえながら、綱吉はトチり気味に返信を打つ。

『一番奥のほうの席にいます』

ぱくんと携帯を閉じてから、すぅうー、はぁあーー、と深呼吸した。
(や、やばいよ、やばい、もうすぐ来ちゃう、ムクちゃんが来ちゃう!!)


ドキドキしながら待っていると、やがてカランカランといったドアを人がくぐる音が響いてきた。

(き、来た………!!!!)



思わずバッと顔をあげてドアのほうを覗き込むようにすると、
長身のスッとした体型の男が一人。
店員と一言二言交わし、店内へと入ってくる。

(なんだ……、)

あからさまにガックリと綱吉は肩を落とした。
一瞬しか見えなかったが、随分美形だったように思う。全体的に服とかのトーンが黒いシックな感じ。
ああいうのはどうせ既に彼女持ちなんだよなぁ〜、皆当たり前みたいな顔して女の子と歩いてんの。何をしなくても、女の子のほうが寄ってくるんだろうな。
何か理不尽だなぁ、あいつもどうせ彼女待ちか何かだろ、と思いながら肘をつく。

すると、その男はどんどんこちらへと向かってきた。
(う、うわ…っ、こっち来るなよ、せっかくムクちゃんと楽しい時間過ごそうと思ってんのに)
妙な威圧感を感じながら、綱吉は視線をそらした。


―――が、近くの席に陣取るのだろうと思っていたその影は、綱吉のすぐ傍で止まった。
(え…?なんで…)
不審に思って綱吉が見上げると、これ以上にないほどの爽やかで綺麗な笑みを浮かべて、その男は綱吉の方をまっすぐ向いて、口を開いた。


「どうもお待たせいたしました綱吉君、ムクです」




「…………は?」


ずるりと、頬杖をついていた手から顔が落ちた。





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