<ゆりはらさまへ>看護学生パラレル特別番外編

  入浴介助練習  



二人とも大学四年、看護学生パラレルです。
そろそろ友達とか友達じゃないとかの境界線がわからなくなってきました(私が)。



大学四年、とうとうきてしまった病棟での臨地実習がはじまってそろそろ二ヶ月。
記録物や現場での苦悩に悲鳴をあげるのが日常的となってきた頃合である。
同じ実習グループである骸と綱吉は、3クール目の成人急性期実習の中盤にさしかかっていた。



整形外科の実習第二週目、金曜日。
どんなに記録物が残っていようとも、どんなにやるべき事前学習が鬼のように溜まっていようとも、
腐っても休みは休みである。明日からの二日間というパラダイスのような土日に、綱吉の顔は自然と綻んでいた。
(とりあえず、何とか頑張ってたまった記録物を少しでもやって、アレ調べてコレやって、でもってすきなことするぞ…!!)
好きなことといっても、まぁ地味に進めていたゲームの続きを進めるだとか些細なものを買いにいくだとかそんな事だが、今の綱吉にとってはそれがどうしようもなく幸福な計画なのである。
金曜日ももう終わる。時計がそろそろ3時半を示す頃、綱吉は受け持ちの患者に挨拶をしてからホクホクとナースステーションに戻ってきた。


担当のナースに午後の報告をしてから手洗いを済ませると、電子カルテを見ていた骸が顔をあげ、立ち上がってこちらに向かってきた。
「お疲れ様です綱吉君」
極めて小声で呟く骸に、綱吉もかすかな声で返した。
「おつかれ、骸さん」
基本的に病棟での私語は禁止。骸が取ってきた記録物のファイルを短く礼をいって受け取ると、「ありがとうございました」と頭を下げてナースステーションを後にする。



「っはあーー、つかれたーー!!」
実習も大学でのカンファレンスも終わり、下宿先への帰り道で、綱吉はおもいっきり両腕をあげて伸びをした。
「いやー何か結構あっという間だったよね骸さん、もう二週目終わっちゃうし!急性期始まるときはどうなるかと思ったけど、あと一週間だしね〜!」
明日からの休みにテンションがあがっているためか、多弁でゴキゲンな綱吉に骸は鼻で小さく笑った。
「何言ってるんですか綱吉君、先週の終わりなんか”もう俺駄目だ骸さん、術後の記録マジでしんどい、俺この急性期乗り切れる気がしない”って泣いてたのどこの誰ですか」
「いっ、いちいち記憶力いいな!だってあんときは俺の患者さん手術直後でホントしんどかったんだよ…!でも今週はだいぶ回復してきてくれたし、よかった」
「まぁそうですね、僕の患者さんなんかもう随分自立度が高くなっちゃいましたから、ほとんどケアすることが無いですよ」
肩をすくめる骸を見上げ、綱吉は瞬きをした。
「でも骸さん、だから最近フリーのナースについて他の患者さんのケアさせてもらってるんじゃないの?」
あまり手伝わなくてもほとんど自分でできてしまうような、自立度の高い患者を受け持った場合(そうでなくても)、看護学生が学ぶべきケアというのが思うように全て実施できないのはよくあることである。
そういうときはうまく時間をあけて、フリーで清潔や排泄のケア(入浴介助、身体を拭く清拭、寝衣交換、浣腸、陰部洗浄、洗髪等のケアのことである)に回っているナースにくっついて、ケアを見学したり一部実施したりして学んでいく。
まさに今、骸はそれをかなりやっているはずだった。
「まぁそう都合よくいきませんよ。結構僕の受け持ちの方の予定と被ったり、たまたまそのときケアできる対象のケア内容が偏っていたりでね。僕未だに一年のときから一回も入浴の介助はしたことがありませんし」
しれっと言う骸に、綱吉はびっくりしたように目を大きく開いた。
「へっ、ないの骸さん?!俺二年のときから入浴介助ばっか見学したりやる機会があったのに…」
へぇー、やっぱ皆色々やってきたこと違うんだなぁ、と感心したように呟く。
「でも僕今回陰部洗浄や排泄の援助はずいぶんやりましたよ。今回だけでも導尿、浣腸、摘便あたりは機会がありましたし」
ニヤリと笑って告げるが、陰部洗浄とはその名の通り陰部を洗浄するケアの事である。
通常寝たきりであったりする患者の陰部を、施設によって様々だがプラスチックの容器を使うなどしてガーゼと石鹸等で洗浄する。
「ずいぶんシモだな!陰洗とかやったことないよ俺!!」
どの容器を使うのかすらまだよく分からない綱吉にとって、それは少し驚きであった。
しかも何やら骸が言うとイヤらしい感じである。
「陰洗に関してはもう僕プロですね」
「イヤなプロフェッショナルだなあ!!すごいピンポイントだし!」
クフフフ、と笑う骸を見ながら(なんかイヤだ!)と綱吉は首を横に振った。



じゃあこのへんでバイバイ、と手を振ろうとしたときに、グイーとその手首をひっつかまれてひっぱられた。
「ア痛たたたッ!ちょお骸さん!」
「君、僕がさっき話してるの聞いてました?」
「え?陰洗のプロって話だよね?」
きょとんと綱吉がひきずられながら聞き返すと、むくれたような顔がこちらを振り向いた。
「そうですよ。僕困ってるんですよ?それなのに見捨てる気ですか?」
「イヤ全然困ってるように聞こえませんでしたけど?!どこらへんが?ねぇどこらへんが?!」
いつまでもひきずられるのは疲れるので、なんとかブチッと腕をもぎ返して同じ方向にてくてく歩いていく。
「だから、このまま入浴介助せずに実習が終わるのはイヤなんですよ」
「まぁそうだろうね。まさか骸さんが四年の今までやったことがないとは思わなかったよ」
「でしょう?僕ちょっとかわいそうでしょう?だから綱吉君、シミュレーションぐらいさせてほしいと思うんですよ」
よよよ、と泣く真似をするように両手で顔面を覆う骸に、綱吉は困ったような顔を向けた。
「って言っても骸さん、あんなん学内じゃ演習できないじゃん…基礎看の実習室に行ってビデオでも借りてくる?」
困ったように呟く綱吉の耳に、覆った両手の隙間からチッとかいう音が聞こえたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。
「ひどい綱吉君!!!あんなビデオクソの役にも立ちませんよ!」
「ずいぶんひどいな!多少役には立つだろアレ!!」
内容的にはたいして変わらないちょっとひどい突っ込みを入れてから、綱吉はため息をはいた。
「じゃあどーすんのさ。長い休みにどっかの老人施設にボランティアにでも行く?それでも入浴介助はなぁ―――」
顔を覆っていた両手から、ちらりと目を覗かせる。
「そんな大仰なことしなくてもいいんですよ綱吉君。僕、簡単なシミュレーションでいいって言ったでしょう?」
「へ?」
悪戯味を含んでキラリと光った瞳は、おそらくさっきのウソ泣き涙のためなどではなかっただろう。





「俺で入浴介助のシミュレーションって、お前そうしたいなら早くそう言えよなー!」
勝手に骸のベランダからプラスチックの椅子をガタガタ風呂場へと持ち込みながら、綱吉はブーブー文句を言っていた。
「ああいう時は人の手ひっぱって回りくどいことばっか言うんじゃなくて、普通にお願いするもんなの!」
骸が提示したのは、右半身麻痺の患者が背もたれつきの椅子を使って入浴するという設定である。
骸の家についてその頼みを聞くやいなや、なんだそんなことかー!と言って今に至るわけである。
その椅子にどかっと座って、「はい、じゃあ最初からお願いします!」と言うが、骸はキョトンとしたものだった。
先程からだまーって何をするでもなく綱吉の行動を見ていた骸だが、綱吉が座るのを確認するとようやく口を開いた。
「……あの、服は脱いでもらわないと洗えないんですが」
「へ?」
患者役は服を着たまま座って、手順だけひととおりさらっと流すものだと思っていた綱吉は、一瞬本気でどう答えていいかわからなかった。

あ ら う き で す か ?



(ウッソ!!マジで?!ウッソ!!!)
身を縮みこませるようにして、骸のおっしゃったとおり衣服をぬいでアレヨアレヨという間にすっぽんぽんになった綱吉は、目を白黒させながら風呂場の背もたれプラスチック椅子(ベランダ在住)に座っていた。
エットエット今コレどういう状況だコレとか思いながら頭をぐるぐるさせたのち、ひらめいたように綱吉は顔を上げた。
「あっ、アレだろ骸さん?!片麻痺の人用のタオルとかブラシとか…!」
半身麻痺の患者専用に、片手だけ使って洗えるようなブラシやタオルがある。
その使い方を指導するのも看護者の重要な役割であり、これはなぜかというと患者が家に帰ったときでもちゃんと一人で入浴できるように―――
「は?ありませんよそんなもの。いいからとりあえず洗わせなさい」
(へぇえええ?!なァにそれェエ!なんか女王様みたいなのが居るよー?!)
寒さではなくガクガクブルブルしている綱吉の横で、骸はしれっとした様子で用具を用意している。
「本来なら手袋使うんでしょうけど、あいにく持ち合わせが無いのでね」
聞いてもいないのにそんな情報を漏らしながら、骸は洗面器やスポンジ、ボディソープなどを綱吉から向かって左側に置いていく。
「はい、じゃあ取り合えずできるところは自分でやってみましょうか」
「え?」
まな板の上の鯉、みたいな気分だったが自分で泳げと放られて、一瞬呆けた顔で綱吉は骸を見た。
「え?じゃないですよ。左は動くんだから右側は自分で洗えるでしょう?スポンジやボディソープはそこに置きましたよ」
軽く腕組みしてこちらを見下ろす骸に(しかし偉そうな介助者である)、「あ…、うん」とだけ呟いて綱吉はモソモソ動いてボディソープを手にとり、スポンジで泡立て始めた。
(うーーん……、同性とはいえ人に見られながら自分の身体洗うってのも…随分、なんていうか、居心地が悪いっていうか…そう考えるとほんと病院って窮屈だろうなぁ…)
何ともいえない表情で右半身をわしゃわしゃ洗っていると、不意に横にあった影が後ろに動いた。
「あれ?骸さ…」
身体をひねって後ろを振り向こうとした綱吉を、ぴしゃりとした声が制した。
「余計に動かないでくださいよ。右麻痺なんですから」
「はいぃっ」
ビシリと元の向きに戻る。
「背中は難しいでしょうから、僕が洗いますよ」
そういって後ろからボディソープに骸の腕が伸びる。
「え、骸さんスポンジ」
「まだ君右洗ってるでしょう。なくていいですよ」
掌にボディソープを伸ばす。で、でもと首をひねりながら綱吉は再びスポンジで右側を洗い始めた。
すると。
「ひゃ」
ぬるん、と骸の手が綱吉の背中を滑った。
(な、なくていいことねぇーー!!)
円を描くように肩から腰にまわし下ろして、少し力をこめて腰の背骨から上の首付近の背骨まで、要するに下から上に向かってまっすぐに手を滑らす。
「んんあっ!」
瞬間、ゾワゾワしたものが腰を抜けて綱吉は思わず天井に喉をそらした。
(やばっ、なんか変な声出しちゃった…!)
バッと口を手でおさえてチラと骸を見ると、実に意味深な笑みをニタリと浮かべた奴がそこにいた。
「申し訳ございません沢田さん、痛かったですか?」
にわかナースを演じながら、指で肩を撫で下ろすようにツツツ、と這わせる。
「ちがッ、もう、こらッ!骸さん!からかわずに……ふぁあッ!!」
つううー、と背筋をなぞられて、ビクッと弓なりに背を反らす。
「ああ、痛くはないと!これはこれは、そんなに弱い背中を失礼いたしましたね。じゃあ前を洗いましょうか」
「い…っ、いいよもう!俺出…ッ」
抗議しようとした綱吉から泡だらけのスポンジをひったくり泡だけ自分の手に塗りつけ、それをやわやわと首筋、肩、胸とひろげていく。
にるん、つるん、と執拗に乳首あたりをこねくりまわすようにされるたびに、肩が跳ねる。
「いやッ、あッ、駄目、って!」
「駄目?なにが?」
クフフ、と笑い、身体をギリギリまで寄せて、吐息を吐くように綱吉の耳元で囁く。
「っ…!」
性感を引きずり出すような掌の感触や、触り方を素でできる人間というのが、何人か居る。
相性とかそういうのも関係するだろうが、綱吉にとって骸の接触はまさにソレだった。
触れたり撫でたりするだけで快感を引きずり出せるような人間。綱吉の頭の中で警告音が響いた。
掌全体で撫で回すように脇腹や腹部を触られて、思わず綱吉は目を閉じて腰を引こうとする。
すると、グイッと強い力で腰を引き寄せられた。
「ちょ…、骸さん、ちょっと。無いって。やめようよ、…」
ただならぬものを感じて綱吉は両手をついて押し返そうとするが、更に肩に片腕を回されて隙間なく骸の方へ引き寄せられる。
「そういえば君、陰部洗浄やったことないって言ってましたよね?教えてあげましょうか?」
「い、いいよッ!だってあれベッド上でやるもん…」
「あいにくと、シャワーボトルなんてものはありませんから、シャワーでいいですよね」
綱吉の制止の声などどこ吹く風で、勝手にシャワーを片手にして湯をひねり出している。
シャワーボトルとは、シャワーのようにいくつか穴のあいたプラスチックのボトルのようなもので、通常はその中に温湯を入れて使う。イメージ的には食器用洗剤ボトルに穴がいっぱいあいてるもんだとでも思っていただければいい。
この骸は、その代わりにシャワーを使うという。
「や、やだやだやめようよ骸さん」
正直、先程までのボディタッチで僅かに反応している陰部に、シャワーボトルとは比べ物にならないほど水力の強いシャワーを使われては、顔を背けたくなる事態になるのは目に見えている。
顔を真っ赤にして綱吉は必死に首を横に振った。
「いらないから!教えてくんなくていいから!!」
「遠慮しなくていいんですよ綱吉君。せっかく僕が教えてあげようって言ってるんですから」
ぎゅうう、と必死に股を閉めようとする綱吉と、ぐぐぐぐ、とこちらも必死に股を広げようとする骸。
「おとなしく股をひらきなさい…!!!」
「ぜっったい い や だ……!!!」
あくまで食い下がる綱吉にチッと舌打ちすると、骸は
「ったくもう聞き分けのない子ですね君は!!!」
といきなりズボオッと石鹸のぬめりにまかせて、股の間に腕を垂直下につっこまれた。
その腕がそのまま陰茎にズルッと擦れて、ビクンと綱吉は背筋を反らす。
「ひゃああ!!」
きゅ、と閉じようとする股の間でやわやわ陰茎をなでられて、シャワー片手にした手でクイと膝頭に力をこめられれば、今度は簡単に開いた。
「そうそう…いい子にしてたら怖くありませんよ…」
既に看護者の台詞ではない。どちらかというと、誘拐犯とか強盗とか強姦魔とか、そういった類の人種の台詞である。
シャーー、と湯を出し続けるシャワーを、陰茎の根元近くにあてがう。
「ふ…ぅうん、んんぅ…ッ」
「こうやって陰部をお湯で湿らせて…」
断続的なシャワーの刺激に、ゆるく陰茎が勃ちあがってくる。それに密やかに口角を上げてから、骸は一旦シャワーをどかした。
「そうそう、ガーゼ等も特にありませんから、まぁ素手でいいですね」
そう言って、ボディソープを手にプッシュする。
さっぱりよくない。教えるどころか、ケアの原型をとどめていない。
「清潔を考えて、一番清潔を保つべきところからいきますよ」
「あっ、ちょッ、駄目だって…ッはぁう!」
何をするか判ってしまって思わず上げた顔が、即座にガクンと下に向けられる。
尿道口のあたりをいきなり親指でグリ、と回されて、ビリビリした強すぎる刺激が背中に抜けた。
「クフフフ…、このあたりは汚れが溜まりやすいですものねぇ?」
にぢゅにぢゅとカリ首のあたりを抉られるように、垢を全てこそぎとられるようにされて、綱吉は骸の服を掴みながらひたすら顔を上げられずに肩を跳ねさせる。
「ぁはアッ…!ひゃ、ハァ…ッ!」
開けたままの口からつう、と唾液が水あめのように下に垂れ落ちた。
竿をしごくように動く骸の手を正視していられなくて、綱吉は薄く開けていた目を閉じる。
は、ふ、と息をしていると、頭上から吐息で笑う声が聞こえた。
「おやおや綱吉君、せっかく洗ってるのに、洗ってる傍から汚しちゃあ駄目じゃないですか」
ジワリと滲んで先程から涙を流すように竿をつたう透明なカウパー腺液と石鹸の泡とをグチャグチャに混ぜながら、睾丸もヌチャヌチャ転がすように洗う。
(だ…って…!!)
…洗う、というより、それはあまりにも。


痛々しいほどに張り詰めた、おそろしく滑りのいいそれをズリュ、ズリュと搾るように擦られ続ければ、いやでも限界まで高まってくる。
怒涛のように襲ってくる快感の波と放出への欲求に、たまらず綱吉は崩れるように骸の胸元にしがみつく。
はっ、はっ、と体中が熱い中ひたすら息を吐きながら、生理的ににじんだ涙でかすむ視界をわずかに開ける。
「も……、だめ、でちゃ……、」
震える声でそう漏らすと、片手がサラリと後頭部を包むように撫で、耳もとへ唇が近付けられた。
「…気持ちいい?」
耳から低くゾクリと流されるような快感に、口を開きかけてハッと噤む。
口を閉じたまま、ふるふると首を横に振る。僅かに残っていた理性が、「それを言うのはなんかおかしい」と警鐘を鳴らしたためだった。
既にこういった状況になっている時点で「おかしい」のラインなど通り越しているのだが、快感に弱った頭でたいしたことなど考えられるはずもなかった。
「嘘吐き、ですね。気持ちイイ、んでしょう!」
裏スジを搾るような動きがいっそう速く、強くなった。
それと同時に、強い圧力で出されたシャワーを鈴口に真正面からあてられて、手足の先を搾り取って痺れさせるような快感がぎゅううう、と襲ってきた。
「ヒは、ァ、ヒぃッ!!きもっ、きもちいッ、ひぃ!いや、あハァ…ッ!!」
足の先を攣りそうなほどピンと張って、限界まで喉をそらして長く長く白い精液をドピュ、ドピュ、ピュ、と吐き出す。
椅子の背もたれから外れて、背を反らしたまま落ちそうなそれを、ガシッとしなやかな腕がくいとめた。
「フフ、そう、よかった…ねぇ綱吉君?」
息もたえだえのなか、呼びかけられたその言葉にゆるく綱吉は視線を向ける。
快感の余韻で、身体がかすかに震えていた。
その頭を抱きかかえるようにして、耳元に再び口を近付ける。
「なに…、」
「立 て ま す ?」
はぁ、ふぅ、と未だ綱吉は息をついている。
この膝で立てと。今?無理だ。
「なに…、なん、で…」
「いいから」
グイッと腕を掴まれて無理矢理立たされる。
「でね綱吉君、そこの浴槽に両手をついて後ろ向いてもらえませんか」
「……?」
要領を得ず首を傾げようとする綱吉の肩を、トンと軽く押す。
「あ…っ、」
よろめいて咄嗟に、浴槽の縁に片手をついた。
「ほら、もう片方も」
促されて、両手をつく。
今、さっき、骸さん…、
なんか、見たことないような顔、してた。
いつものように笑ってるけど、目は笑ってなくて、どっか、何か焦ってるような
余裕が ないような…?
「むくろさん…?」
呟くと、影が背中に覆いかぶさってきた。
「綱吉君、僕は本来ね、結構君にはサービス精神旺盛なんですけど」
何か了承しがたい意味のわからない言葉だったので、綱吉は聞き流した。
ただ判っていたのは、尻や肛門付近にぬるぬる這い回る指があるというだけで。
「…っふぁ、ちょ、」
「今日ぐらい君だって、僕にサービスしてくれてもいいんじゃないですか?」
「ひぃ…んっ!」
ぐぬん、と後孔に細い何かが滑り入ってきた。
にちにち、と二本の指が襞を押し広げるようにやたらめったら好き勝手に動いて、そこから、ゾワゾワと、
(へん、な感じ、する……ッ!!)
ぎゅううう、と目を瞑って浴槽の縁を握る。
「やめて、やめて骸さん……ッ、それやめてっ!」
「やめるとでも?」
ハァ、と情欲に濡れたような、湿った吐息が響く。
綱吉の耳元で吐かれる吐息が熱を帯びている。
綱吉の臀部の双丘になぞるように擦られるのは、それは紛れもなく彼自身の――
「ちょっと挿れるぐらい、いいでしょう?」
「イ゛ッ――――!!」
ミヂミヂ、と狭い後孔を性急に押し分けて、圧倒的な質量が綱吉を喰い裂こうとしていた。
あくあく、と息ができずにいる綱吉の喉に指を這わせて、ずぬう!と自身の陰茎を無理矢理埋め込む。
ぼろり、と綱吉の目から涙が溢れた。
ヒッ、ヒッ、ヒッ、と呼吸のままならない綱吉の背に覆いかぶさって、骸は苦しげに柳眉を寄せた。
「っク……、綱吉君、口で、呼吸して。力を抜いて」
言われたように綱吉は、ひ、は、ひ、は、と口で息をするが力が抜けない。
「膝を。曲げて」
言われるまま、はやくこの苦しみから逃れたくて人形のように綱吉は膝から力を抜く。
途端に、ガクンと膝をついてずるう、と骸自身がひきぬかれる。
後孔がスースーするのを感じながら、綱吉は浴槽の縁に額をつけた。
その綱吉の腰を、膝をつかせたままグイと上げる腕があった。
「やっ、やだやだ!い……ッ!!!」
ずるうう、
「はひィ…ッ!!!」
今度は先程よりスムーズに入ったが、信じられないほどの異物感と痛みが拭えない。
その異物を押し出したくて、ヒクヒクと肛門に力が入る。
「…ふ、ぅ…ッ、そうそう、その調子です、よ…ッ!」
「ひいいい」
ずるうと一旦引き抜かれて、
「ぃああああっ!」
ずぢゅん!と一気に入れられる。
ひぃい、ひん、と涙を零していると、腰に両手をあてがわれて、
そこから、一気に速いピストンが開始された。
「ア゛ッア゛ッア゛ッ、アぐぅッ」
痛みと辛さとしびれるような感覚とで、揺さぶられるままに声が上がる。
ガクンと頭を下に垂らすと、自分のか相手のか判らない透明や白の液体と、おそらく自分の赤い線が太腿をつたって流れていて、ひどく淫猥でゾクリとクる。
普段聞いたこともないような骸の吐息がおおきく耳に響いて、それがひどく悩ましくて、たまらず綱吉は背筋が震えた。
(やば、むくろさ、えろ…っ)
「クは……っ、ああ、君、ずいぶん、イイですね…ッ、はぁッ、」
熱を帯びて上擦ったような声で呟きながら、更に身体を寄せて後ろから抱くようにして小刻みのピストンを繰り返す。
その抽挿される陰茎の先端が、震えるほどイイところを断続的に刺激して、綱吉はブルブルと体を震わせた。
「ぅ、ぅあーーッ!!だ、だめーーッ!だめーーッ!!」
目を見開いて天井を仰ぐほどに喉をそらす。圧倒的な快感に持っていかれそうになって、「ひぐぅ…!!」綱吉は瞼を閉じる。意識のくらむような快感に支配されたその瞬間、ゆるく勃ちあがりかけたままの綱吉の陰茎からトロリとつたい落ちるように白濁が流れ落ちた。
ブルブルッ、と背筋が震えるのに伴って、臀部付近の筋肉も収縮する。
「…ッ、は……っ、」
それに押し流されるようにして骸も綱吉の腸壁に精液を押し込むように叩きつける。
「ひぁ、はぁ…ッ!」
ずるりと骸自身が抜けた瞬間、クタリと綱吉の上半身が崩れ落ちた。







「何アレ骸さん。何アレ。」
目覚めて骸を半眼でとらえた綱吉が発した最初の言葉は、限りなく不機嫌なそれだった。
「何が入浴介助だよ!!何が右麻痺患者だよ!!!カンケーねーじゃんなんもかんも!! っ痛たたた」
勢いよく起き上がるが、腰を走る痛みのためにそのままの状態で突っ伏した。
「ああ綱吉君、そんな無理するなんて馬鹿なことを」
「ブァ鹿はどっちだよー!!アンタあれ女の子相手だったら強姦って言うんだよ!ただの襲い魔じゃんか!」
バンバァン!と怒りに任せて盛大に骸のベッドを叩く綱吉にペットボトルのミネラルウォーターを持っていきながら(しかしながら2リットル入りそのまま)、骸はしれっと首を傾げる。
「あれ?あれって同意の上じゃなかったですっけ」
「どこをどう解釈したらあれが同意の上になっちゃうんだよ!!すごいミラクルだよ!!無いよ!!そんな!!!」
ペットボトルをひったくって(重いために少しよろけた)、バリバリと新品のキャップを外して威勢よく傾ける。
っぷは、と口元をぬぐって、ドンとペットボトルを置く。
「ったく…いくらなんでもさー、溜まってるからって同級生の友達襲うのってどうなの骸さん。ってか骸さんだったら相手いくらでもいるんじゃないの?こんな罰ゲームみたいなことしなくてもさー…」
「はぁ?」
やれやれとため息をつく綱吉の頭上から、軽くチビりそうなほど不機嫌な声が聞こえた。
「エッ  あれ、 」
何でそんな 怖いオーラが一気に出てるのかな
おそるおそる、非常に慎重に綱吉が上を見上げると、元の顔の造形が秀麗であるために壮絶に凄みのある怒りの顔がそこに鎮座おわしていた。
「罰ゲーム? 何が? 綱吉君」
「っい、いや、何か、その、ほら、ねぇ?」
「……同級生の。 友達ィ?」
(こっわ!!何、こっわ!!!)
「え、何、友達ってのもおこがましくて言っちゃダメだった俺…?」
俺ってもしかして気付いてなかっただけで、骸さんの下僕とかそんなんだったの?
「……はぁーん。ふーーん。ああ、そうですか。へえ。なるほどね。ふうん」
やたらもったいぶった様子で、しかも未だに壮絶に不機嫌そうな様子のまま腕を組んでひたすらほーんとかふーんとか呻っている。
「じゃあ君は。その同級生の友達に。罰ゲームみたいに。犯されてひんひん善がって泣いてたと」
「よ…ッ、よがってなんかないよ!!痛かったんだよ!!」
途端に顔を紅潮させて抗議する綱吉にぐっと顔を近付けて、先程とは打って変わってニタリとした笑みを浮かべる。
「へぇ…?”きもっ、きもちいッ、ひぃ!いや、あハァ…ッ!!”」
「!!!…」
一分の間違いもなく繰り返された先程の情感極まった言葉に、カッとなって拳を振り上げる。
その拳をバシィ、と掴んで、くつくつと骸は笑った。
「じゃあそういうことにしておいてあげてもいいですよ。そうそう、溜まってたんですけどね、君の具合が思ったより随分よかったから、また今度も助けてくれませんか?ねぇ、”友達”なんでしょう?」
”友達”という単語にいやにねっとりとアクセントをおいて、骸はねばつくように言って聞かせた。
「ッ…するかよバカ!」
バシャ、とペットボトルの水をかけると、ぽたぽたと骸の髪から水が滴り落ちた。
「おや、おや」
眉をさげて口の端を持ち上げると、
どぽんどぽんどぽんっ
「…ッ、くっさーーー!!酒?!」
手近にあった赤ワインのボトルをまっさかさまにひっくり返されて、綱吉は頭からワインをかぶる羽目になった。
「クフフフ、お風呂ならありますけど?」
入ればいいんじゃないですか?とニヤニヤ促すパイナップルから、入り口へと盛大に顔をそらした。
「帰る!!!!」



―――その後も、あれやこれやと言いくるめられてそれこそ罰ゲームなんか目じゃない被害に綱吉が遭うのは、またべつのお話。






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