養護教諭ツナパラレル  



最初「小ねた:ハルは聞いた」として書いてたのだけれど、ちょと長くなったのでセイヤとあげてみたですよ ガス抜き的小ねた


かんたん設定:(同一高校でのパラレル)
綱吉→養護教諭
ハル→女子高生
骸→高校教諭


ハルは朝から何だか調子が悪かった。
(はひ…、ちょっと熱っぽくて身体がしんどいです…)
ずび、と鼻をすする。思いっきり咳をすると喉がいたいので、控えめにケンケンする。
(お昼ごはんも残してしまいました…勿体ないです…)
弁当箱に残った中味を憂鬱に思い浮かべながら、フラフラとハルは歩いていた。
誰がどう見ても立派な風邪なので、友人の京子に強く勧められたのもあって保健室に向かっているのだ。
ずず、と再び鼻をすする。しんどいはずなのだが、ハルはえへ、と笑っていた。
(ツナ先生…、会えるのが楽しみです!)
普段めったに保健室は使わないがそこの住人は知っている。
穏やかな顔で笑う件の養護教諭に、ハルはひそかにメロメロだった。
がらり、と保健室の扉を開ける。
「しつれいします…、」
部屋に入ると、相変わらずまろやかな癒しオーラを発する沢田綱吉養護教諭が椅子からちょこんと身体を傾げた。
「いらっしゃい、今日はどうしたの?」
「はひ…、あの、なんか熱があるみたいなんです」
「そっか。じゃあ体温計渡すからこのカードに名前とクラスを記入して、ちょっと測ってもらえるかな?」
言われるままに体温を測って、ハルは「ふわ」と小さな声を発した。
「ツナ先生、けっこう高かったです」
「ん、37.9℃…結構あるね。平熱はどのくらい?関節とかは痛くない?」
「平熱は36.3℃ぐらいです…うう、そう言われてみれば確かに痛いかもです…筋肉痛だと思ってました……」
うー、とへちょる。綱吉は指を口元にあてて思案してから、小さく頷いた。
「ちょうど今流行してるし、インフルエンザの可能性もあるね。今日は親御さんに連れて帰ってもらって、病院に行ったほうがいいと思うんだけど、どうかな」
やわらかな声がハルの耳をうつ。病気のせいなのか何なのかわからないが、少しぼーっとする。
「はい…、ツナ先生がそういうなら、いいと思います…」
「ん。じゃあ電話するから、親御さんが向かえにきてくれるまでそこのベッドで寝ててもらっていいかな?」
「はいです!」
ちょっとの時間だけでも、綱吉のいる空間と同じところに居れるのが嬉しくて、つい元気よく返事してしまう。
フワフワした気持ちで、ハルはベッドにもぐりこんだ。



保健室内は、ハルと綱吉以外には人がおらず、とても静かで落ち着いた空間だった。
だからだろうか。
カーテンを閉めてベッドにもぐりこんで、じんわり身体が温まってくるのに伴ってハルはうつらうつらと寝そうになっていた。ここちよい空間。
しかし、その静謐さを打ち破る音が部屋に響いた。
ガラガラガラ、バムン!
勢いがつく引き戸にしたって、勢いがつきすぎの音である。
「こんにちは沢田先生、遊びにきましたよ!」
「ちょ…ッ、うるさいですから六道先生!」
びっくりするほど明るく飛び込んできた声に、ハルの目はばっちり開いてしまった。
(ろ、六道先生です…!!お、お二人は仲がよかったんですね…!!)
六道骸こと六道先生はどことなくミステリアスでありながらも、上品な物腰と丁寧な指導、そしてなにより容姿が女生徒に人気の教師である。ハルのいる学校で女子生徒から人気のある男性教諭というのは珍しいのだが(年の近いお姉さん的女性教諭のほうが人気になる率が高い)、彼は別だった。
別といえば、沢田養護教諭もではあるが。
この二人が、こんな仲良さそうだとは知らなかった。
大体生徒からしてみれば、先生同士のつながりや関係は見えにくい。先生が話さないかぎり。
(お二人はいったいどういうお友達なんでしょう…?)
ハルは、じっと二人の会話に耳を傾けてみた。


「ねぇ沢田先生、今日は大丈夫でしょう?一緒に遊びに行きましょうよ」
若干甘い響きをもった骸の声が響く。ハルが軽い驚きとともにカーテンの奥にいるであろう二人に視線を向けた。
だって、六道先生の普段の上品な佇まいからは、こんな馴れ馴れしさは感じられないから。
というか、遊びって一体、この組み合わせでどんな遊びをするっていうんでしょー…!
「残念ですけど六道先生、遊びのお誘いはお断りしますと前言いましたよね」
ピシャリと言い放つ硬い響きをもった綱吉の声が響く。これまたハルはびっくりして瞬きをした。
だって、ツナ先生はいつでもやわらかく人を受け入れるような感じのする人だから。こんなにきっぱり拒絶するなんて、信じがたかった。
「全く…、君はいつもいつもそれだ。人の気持ちっていうのを考えたことがありますか」
「それはこっちの台詞ですよ。ところで俺は今仕事中なんで、先生もはやく職員室なりどこへなり戻ったらどうですか」
ハルは少しハラハラしてきた。このまま二人がここで喧嘩しちゃったらどうすればいいんでしょう…!気まずいです…!!
それにしても六道先生の台詞が、何かおかしいような?
「僕がこんなに熱烈にアタックを続けているっていうのに、君はつれない人だ。いっそのこと無理矢理そこのベッドで押し倒…むぐっ」
(は、はひっ?!今なんかすごい言葉が聞こえたような気がしました!!)
「ちょ、シーーーー!!!!だから来るなって言うんだよアンタ!!俺の肝をどれだけ冷やせば気が済むんだよ!」
ひそひそっと話しているが、ちゃんとハルの耳には聞こえていた。
(ちょ…、ちょっと待ちましょう!お二人は本当にどういったご関係なんでしょうか?!)
ぎゅうう、と布団を握り締める。六道先生にはきっと素敵な彼女がいるんだ、って友達が話していたけれど、こ、これは予想できませんでした…!!
「綱吉君がいつまでたっても色よい返事をくれないからですよ。僕が珍しく段階を踏んで君をモノにしようとしてるのに、何を勘違いしているのか君はそれを拒否し続けようとするから」
(は、はひー!な、なんという…!!)
決定的ともいえる言葉に、ハルは思わず声をあげそうになった。
「勘違いしてるのは骸さんの方だろ、何で俺がお前のモノになるのが前提になってるんだよ。そこからおかしいよ」
(し、しかもさっきからお互いの呼び方や喋り方が変わっています…!お二人はいつからお知り合いなんでしょうか…!!)
「何もおかしくないですよ!いい加減股を開いたらどうなんですか!!
「ちょッ、何言ってんだアンタほんとに!!今生徒さんが寝てるんだから!」
(ほ、ほんと何言ってるんですかろくどーせんせーー?!)
「関係ありませんよ。まだ何個かベッドは空いてるでしょう?」
「お前の言う”段階”って一体何を指してるんだよ!すごい一足飛びだなぁ全く!本当末恐ろしいよ!!」
「別に僕はここでも構わないんですよ。ねぇ綱吉君…、」
骸の呼びかける声が、吐息の混ざった囁き声に変わる。声色が本気だ。
「だっ、だからほんと、無いから…ッ!骸さん、やめ…ッ!」
ゴソ、と動く気配と、キキィ、とキャスターのついた椅子が動くような音がする。
ハルの頭の中ではリアルに、椅子に座ったまま後ろに下がろうとする綱吉と、それに乗り上げるように近づく骸の図が描き出されていた。
(はひー!!なんだか雰囲気がデンジャラスになってきましたぁあー!ツナ先生が、ツナ先生が汚されちゃいます――!!)
憧れのツナ先生の(おそらく)絶対絶命のピンチに、心臓がばっくんばっくんいうのを感じながら、思わず飛び起きようとハルが上体を起こしかけたその時。
プルルル!!
と高い音をたてて保健室内の電話がなった。
どふっ!「グフッ!」ガタガタン! パテテテ…、と、何かアクションが起こったあと(更には骸の、まさかのうめき声)に足音のようなものが響いて、ガチャリと受話器をとる音が聞こえる。
「あ…、はい!親御さんが着かれましたか。よかった…えぇ、今眠ってもらっているので、保健室にお越し下さるように…、はい、はい、お願いします」
カタ…、と受話器を置く音がして、ステ、ステと足音が聞こえた。
「じゃそういうわけなんで六道先生、そろそろ巣に戻ったらいかがですか」
きぱっと上機嫌に響く声に、呻くような声が返される。
「チ…ッ、なかなかいい拳を繰り出すようになったじゃないですか綱吉君…」
「六道先生のおかげで嫌でも鍛えられてしまいましたよ。いいからほら先生、こんなところで油売ってないで戻ったらどうですか」
「判りましたよ…まぁ他にも機会はいくらでもありますからね。せいぜい覚悟をしている事です」
「…あ、そうだ、そういえば骸さん、今日洗濯機の中の洗濯物干さずに出て行ったでしょう。あれ大急ぎで干したおかげで俺遅れそうになったんですけど」
「綱吉君が干してくれるだろうと思って。僕も少々急いでたんですよ」
(はれ…??これは一体…?)
一瞬耳を疑うような会話に、ハルは瞬きをした。
まるでこれでは。
「か、勝手だなぁあんた!そういや前も俺がとっといた食べかけのヨーグルト食べただろ!」
「あぁ、あれは結構いけましたね。とっといたとか言っても綱吉君、あのヨーグルトは僕が買ってきたものですよ。
まぁ、君が食べた食べかけを食べるために買ってきたんですが」
「…うん、深くは考えないことにする。なぁ、あといつのまにか俺の下着が微妙に減ってるのは気のせいかな」
「さぁ、いかんせん洗濯も一緒くたにしてしまうし、収納スペースも限られてますからね。僕がついうっかり使っていても仕方ありませんよね」
「って使ってんのもしかして?!!や、やめて骸さん、何かゾワゾワするからやめて!!」
「僕はゾクゾクするんですけど。クフフ」
「こ、今度から洗濯物はカゴ分けて別々にするからな!」
「僕が気付いたら洗濯しておいてあげますよ。電気代を節約するためにまとめて」
「やめてよ!」
(やっぱり一緒に住んでるんですかーーー?!何でいい年してルームシェアなんですか、というか六道先生の行動が聞く限り妙です!!)
つい今しがた知った驚愕の事実に、ハルは動きが止まって起き上がるどころではなかった。
色々な意味で震えそうになっていると、コンコンと保健室をノックする音が響いた。
「あ、はい、どうぞ」
入ってきたのはハルの父親で、どうやら迎えに来たらしい。
「迎えにきたみたいだけど…どうかな、大丈夫?」
伺うようにそっとカーテンをあける綱吉に、ハルはぶんぶんと首をタテに振った。
「は、はい!!大丈夫ですかえれます!」
「そ、そう?じゃあ…」
一瞬面食らったように綱吉がきょとんと目をみはる。
それはそうだ。さっきの会話が聞かれていたらちょっとアレである。
すると、その時丁度六時間目の授業のはじまりを知らせるチャイムが鳴った。その瞬間、綱吉がぱぁっと顔を輝かせる。
(は、はわ!ツナ先生すごい笑顔です…!)
綱吉の顔を見ながらハルがベッドから降りると、何やらつまらなそうな表情をして椅子を陣取る骸が居た。
「ほら先生、次あるんじゃなかったんですか」
うきうきするような声に促されて、しぶしぶといった風に骸が椅子から立ち上がった。
「…ではまた後ほど」
ハルの親と入れ替わるように保健室の扉に向かって骸が歩いていく。
そして部屋から出る間際、
「今日は少し忙しくなりそうなので、豆乳鍋でいいですか」
「俺代わろうか?別に二日連続でも大丈夫だよ」
「いえ、それは大丈夫です。でも鍋が嫌なら」
「いや、いいよ。俺豆乳鍋好きだもん」
「じゃあそれにします。次はもっとちゃんとしたのにするので。また」
「うん」
ヒラヒラと手を振る綱吉に、軽く手をあげて返して、六道先生は授業に行ってしまった。
簡単になされた会話と間に流れる空気が、色々な事を物語っていた。



(…なんでこれで、付き合ってないのかハルは不思議でなりません)

思わず口から出そうな疑問を誤魔化すかのように、くしゅんっとくしゃみが一つ出た。
ああ、これから熱が上がるのだろうなと、ぼんやりと思った。





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