看護学生パラレル

  くりすます  



はっちゃけ世話焼き白(灰?)骸
看護学生(大学生)パラレル 友人同士(?)



「メリークリスマース綱吉君!」
「メリーでもないしクリスマスでもないですよ。俺は」


あと、勝手にベランダに侵入するのやめてください。近所迷惑ですから。




寒風吹きすさぶ中、沢田(一人暮らし)宅のベランダの内と外に男が二人、立っていた。



放っておけばいつまでもベランダに居座るので(しかもうるさい)、落ち着かなくて綱吉が骸を部屋に入れた。いつもこのパターンだ。
以前玄関から入ってきてくださいよと言うと、チャイムを頭がおかしいほど連打されたのでもう何も言わなくなった。
それは暗に「もう家に来るな」という言外の意味をこめていたのだが、骸はやはりベランダから入ってもいいのだと勘違いしたようだ。


「ああ、こたつあったかいですね、庶民的でいい感じですね」
ガラガラピシャとベランダの窓を綱吉が無言で閉めると、既に骸はホクホクとこたつに勝手に入っていた。
「ごめんなさいね庶民で、やたらハイソサエティな骸さんの部屋とは違って」
「やだなぁ、羨ましいんですよ僕はこのこたつが。実家にこたつなんてありませんでしたからね。適度に散らかってもいないし」
骸は参考書やプリントの散乱した机や部屋を、眩しいものでも見るような目で見回した。
「こんなものしかありませんけどどうぞ!!」
素で無礼なこの男に、綱吉は湯のみに入ったお茶をダンッと置いた。
「うわぁっ、出がらしのほうじ茶ですね、なんだかテレビみたいですねぇ〜、いただきます」
くそ、どの時代が舞台の番組だよ!と胸中でツッこみながら、苦々しい顔で綱吉もこたつにもぐった。
目の前には、先ほどまで真剣に取り掛かっていた(が一向に進みが遅い)、以前のテストの直しが広げられてある。
ずずず、と笑顔で骸が茶を飲んでいる横で、綱吉は遠い目をしながら答案を眺めた。
点数は無残なものである。当然のことながら合格点以下。ダメすぎる。
しかも、もう何日もしないうちに、この間違ったところを直して再提出しなければいけない。
本当に、メリーでもなければクリスマスでもない。
(あー…、ただでさえ終わらないっていうのに…)
大きすぎる邪魔が入っちゃったよ…。
綱吉はため息をついた。


「そうそう、僕クリスマスケーキ持ってきたんですよ。僕はあんまり食べないんで綱吉君が9割ぐらい食べていいですよ」
さっきから薄々気付いてはいたがやはりケーキだったかという大きな箱を、どんっと机(答案)の上に骸が置いた。
「え、なんかこの箱大きくないですか骸さん」
「そうそう、二段重ねなんてちょっと豪華でしょう?」
ぱかっと骸が箱のフタを開けると、直径25cmはあろうかというケーキの上にもう一段ケーキが乗っている。
「いや、9割とかフツーに無理だよこれ!!もうちょっと考えようよ!!」
「大丈夫ですよ綱吉君だったら」
「俺どんだけケーキ食う人なんだよ!!ないよ!こんな!!」
必死にツッこむ綱吉を尻目に、骸はケーキをぐるぐる回しながら、「どの飾りを一番に綱吉君に食べてもらいましょうねぇ」なんてのんきなことを呟いている。
「まぁ、残ったぶんは冷凍庫にでも入れればいいんじゃないですか」
すちゃ、と付属のケーキ切る用ナイフを手にして、ケーキに切れ目を入れながら適当な事を言う。
「適当言わないでくださいよ…、俺の冷凍庫ケーキで全部埋めるつもりですか…」
「クフフフ、僕の贈り物で綱吉君家の冷凍庫が全て満たされるんですか、それはいいですよねぇ」
順調にふた切れ切り分けながら骸は満面の笑みを隠そうともしない。
「なんか呪われそうですよ!」
「クフフ、はい、綱吉君はこのサンタさんとトナカイとチョコの飾りとイチゴと桃と梨が乗ったところをどうぞ」
「今無理矢理乗せましたよね、全部」
一切れにしてはやけに幅広なケーキを綱吉に差し出して、自分にはシンプルな(というか何も乗っていない)一切れを切り分けた。
「いいんですか骸さん。ていうか僕このサンタさんのお菓子とかあんまり好きじゃないんですけど」
「いいんですよ。エンリョしないで食べてください、そのために持ってきたんですから」
そういわれると無下にしにくい。う、と言葉をつまらせて、確かに丁度甘いものが欲しかったし、と綱吉はケーキにありついた。
すると、口のなかに一口入れた瞬間、口の中でクリームがふわっと溶けて上品な甘みが広がった。
スポンジが、ありえないほどしっとりして中身がつまっている。このしっとり具合は一体?!このクリームの味は一体?!
そこらへんの市販のケーキの味ではない。かなり玄人志向のケーキの味だと、庶民な綱吉でもわかった。
「ぅ…っ、ぅおぉいしぃ〜〜…!!」
これなら9割保存してもいいかも。
目をうるませながら頬っぺたを片手でおさえる綱吉に、「ね?9割いけそうでしょう?」と骸は笑ってお茶に口をつけた。
出がらしのお茶を出したのは、ちょっと悪かったなと一瞬思ったが(しかしこれしかないので仕方ない)、まぁ、本人も笑ってるのでよしとしよう。





「ところで綱吉君」
「なんですか?」
「君、もしかして再提出だったんですか?」
ケーキを好きなだけ食べて残りを冷凍庫に入れてから、幸せな気持ちでこたつに入っていたとき、骸の言葉によって突如として現実に引き戻された。
「………」
というか、思いっきり机の上に出していたのにどうしてこの人は気付かなかったんだろう。
「ええ……」
「期限は明後日でしたっけ?」
「はい…よく覚えてますね」
ぺらり、と答案をめくりながら聞く骸に、綱吉は呻くような声で答えた。
「まぁ、もしかしたらと思ってましたから」
「え?まさか骸さんが落ちるなんてことないでしょう」
「いや、君の事ですよ」
(……!!!)
しれっと告げられたそれに、ばっと綱吉は骸のほうを向いた。
もしかしたら、とは意訳すると”もしかしたら綱吉君、落ちてるだろうなと思ってましたから”って事か!畜生大正解だよ!
「だって君、すごい悲痛な面持ちで頭抱えてたじゃないですか。しかも試験後に、参考書を凝視して一時間近くも。君がああなってるときは大抵よくない結果です」
もう、無駄によく見てるなあ!!!と、半泣きになりながら胸中で綱吉は叫んだ。
「くううう、そうですよぅ!!だから、ケーキはありがたかったけどそろそろコレに取り掛かりたいんですよ僕は!」
のんきにメリーなんとかとか言ってる優雅な身分の骸さんとは違うんですよ!と、ばんばんと綱吉は答案を叩いた。
「そうですね。で、どこで詰まってるんです」
(あれ、もっと食い下がるかと思ったのに、あっさり引き下がったな)
キョトンとして綱吉が何も言わないでいると、骸が若干おもしろくなさそうな顔をしてバラララと参考書をめくった。
「一枚目の問1から5は、このあたりを見れば答えが載ってますよ」
すっと差し出された参考書のページを、目をぱちくりしながら綱吉が見る。
(ん?)
たしかに答えが載っている。何だ、こんなとこに載っていたのか。
(んん?)
ペンを片手に綱吉はかたまる。
あれあれ、これは何が始まってるんだ。
「あと二枚目のこの問題の解釈ですけど、僕が教えてもいいですけど自分で調べたほうがいいでしょう。過去の問題集は持ってますか―――って、綱吉君?」
何の反応もない綱吉をいぶかしむように骸が様子を伺うと、綱吉は首を傾げていた。
「え、骸さん、これって」
「ん?どれですか」
何か他に不明な点が?
首を傾げたままぎこちなく聞く綱吉の、手元にある答案を骸は覗き込んだ。
「いやいや、え?これもしかして骸さん教えてくれてるの?俺の提出物手伝ってくれてるの?」
答案を指差しながら聞く綱吉に、骸は眉をひそめた。
「は?何言ってるんですか今更。だってこれ終わらせないといけないんでしょう」
「あ、や、まぁそうなんですけど。わざわざ骸さんが手伝わなくても」
だってもう一緒にケーキも食べたし。帰っていいんですよ。
控えめに綱吉が骸の身を(いや自分の身を)解放しようと言葉を発すると、あきれたように骸がため息をついた。
「ダメですよ綱吉君。これやらなきゃ」
「いや、だからやりますから」
「だって綱吉君、僕が帰ったあとにちゃんとやれるか不安なんですもん。さっきも初っ端から躓いてたんじゃないんですか?」
一枚目の問1を指差す骸に、綱吉は言葉を詰まらせる。
「ぅ……、」
「出題者だって適当に問題出してるわけじゃないんですから、こういうのは見るとこ見れば答えらしきものは載ってるんですよ。効率よく見るとこ見たほうがいいですよ。それを教えるぐらいいいでしょう」
僕が全部教えてもいいんですけど、それじゃ力になりませんからね、とパラパラと問題集をめくる骸に、唖然とした後にはっと正気に戻って、ぺこぺこと無言で綱吉は頭を下げた。
何処見たらいいか実際わからなかったので、助かるとしか言いようがなかった。これで少しは何を足がかりにして勉強したらいいかわかりそうだった。




二時間後。
教えてもらった参考ページを見ながら、えっちらおっちら問題を完璧に解き終えた綱吉は、「やったー!!」と盛大に両腕を上げて後ろ向きに倒れこんだ。
途中、「もう自分でできそうなんで大丈夫ですよ」と骸に呼びかけたが、骸は「ええ」と参考書をぱらぱらめくりながらぬるい返事を返すのみだった。
骸さんも勉強する気になったのかな、珍しいなと思いながら、だったらまぁそのまま放っておこうかと綱吉は直しを続けていた。
すると、参考書に付箋をぺたぺた貼りながら
「後で勉強するときは、まずこの付箋を貼ったあたりを見てたら掴みやすいと思いますよ」
と教えてくる。ためしにパラパラその箇所を見てみたら、たしかに最重要ポイントが要領よく押さえられていそうだった。すごいな。なんだこりゃあ。なんかおかあさんみたいじゃないか。


「あーー、それにしても骸さん教え方上手だねやっぱり!先生とかになればいいんじゃないですか」
提出物が終わり、上機嫌に笑いながら綱吉が骸のほうを見ると、骸は厭そうに顔をしかめた。
「厭ですよ。教員だなんて煩わしい。なんでわざわざ色んなしがらみに揉まれながら他人の面倒見なきゃいけないんですか」
さっきあれほど自分の世話を焼いたその骸がそんな台詞を言うのに、思わず綱吉は吹き出した。
「ぶっ、骸さん案外面倒見よさそうなのになぁー」
先ほどの手際の良い世話焼き加減を思い出しながら天井に綱吉が目を向けていると、
「別に。君だから面倒見たんですけど」
少し拗ねたような表情の骸が上から覆い被さるように覗き込んできた。
「あっ、そうなんですか?」
相変わらず笑ったまま綱吉が骸を見上げていると、ふぅと小さくため息をついてから骸は普通に座りなおした。
「いいですけどね。別に」
「えっ、何がですか?」
綱吉もつられるように座りなおす。
すると、骸の目が悪戯っ子のそれのようにきらりと光った。ような気がした。
「ところで、ねぇ綱吉君。ちょっと出かけませんか?」
「は?こんな時間にですか?」
もうお店が開いてる時間じゃないですよ、と綱吉が時計を見る。夜の1:30。色々閉まっている時間だし、こんな時間に開いてる店にコンビニとレンタル屋以外綱吉は行った事が無い。
まさかカラオケとかそんなんですか?と問おうと口を開く前に、骸が首を横に振った。
「こんな時間だからですよ。今の時期、そして時間は色んな高級住宅地が庭にイルミネーションをひけらかしているときですよ」
君、そういうの好きでしょう?と頬を緩める骸に、綱吉は目を見開いた。
「たっ、たしかに好きです!けど…、今日はもう遅いし、明日とかでも」
「いやですよ、今日がいいです。それに早めの時間だと人が混んでそうでイヤなんです」
人ごみを嫌う骸らしい言い分である。
「はぁ…、じゃあ、まあ、今日行きましょうか」
まぁ、ちょっとイルミネーション見に行くくらい、と綱吉が頷くと、
「そう言ってくれると思ってましたよ!じゃあ早速行きましょう!」
満面の笑みで骸が車のキイを取り出した。


そして、
「そうそう、途中車で綱吉君が勝手に寝ちゃったら、僕も知らない土地に車を走らせますからそのつもりで」
という意味わからん骸の言葉によって道中も必死に綱吉は起きていたのだが、
ドライブはイルミネーションだけでは終わらず更に突然
「○○県の○○滝に行きたいですね。今まさにこの時間に」
というとんでもない骸の一言によって長すぎるドライブを続けられ、更に明け方近くになって瀕死の状態の綱吉に
「せっかくだから日の出が綺麗に見えるところがあるんですよ」
と言って日の出が絶景のスポットに(それこそ今日でなくてもいいのに)連れていかれ、
「やっぱり12月の明け方ともなると冷えますね、帰る前に温泉にでも寄って行きましょうか」
と昼近くまで果ては温泉、朝昼ごはんまで連れまわされ、
家のある県に帰ってくるころにはところどころ綱吉の意識と記憶は飛んでいた。
挙句の果てには、
「あふ…流石に僕も眠くなってきました。さっきからちょこちょこ意識が飛んで」
と、ハンドルを握りながら致命的に物騒なことを言い出したので、
「むくろさん、いいです、どこでもいいからあのほんと寝ましょう、仮眠とりましょうよ」
と半泣きになりながら骸の体をゆさぶって(寝そうだったからである)頼んだところ、
よりにもよっていかがわしいホテルなんぞに仮眠を一緒にとりにいかされたのだった。
「コンビニの駐車場に止めて車ん中で寝ればいいじゃないですか!!」と、意識が沈没しそうになりながらも必死に言い募る綱吉の言葉を、
「だって僕車の中じゃ寝心地が悪くて寝られないんですもん。ちゃんとした寝床じゃないとこは寝るとこじゃないですよ。綱吉君は平気なんですか?」
とにべもなく骸は却下した。
じゃあお前男二人でラブホは平気なのかよ!!と全力でつっこみたかったが、いかんせん寝たくて仕方なかったし交通事故とかで死にたくなかった綱吉は、もうどうでもいいやと思いながら骸と二人で気を失うようにラブホの寝台で眠りこけたのだった。

十分な睡眠をとって正気も取り戻した綱吉が、色んな価値観の葛藤によって悲鳴をあげるのはあと何時間か後のことである。








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