看護学生パラレル
成人看護学 技術演習「血糖測定」
※刺すっていう行為とか色んなものが性的な象徴だと知った頃、
象徴にするにしたってもっと含蓄のあるものを含蓄のあるように象徴とするかと思っていたのに、大人ってのは思ったよりつまらないなぁと思った。
というか、もったいぶって○○の象徴ってしてるのが性的なもんばっかりで面白くないなって思ってた。
けど、つい連想しちまうものに詰まるも詰まらないもなかったんだ、きっと。
茶色のソフトクリーム見てうんことか思っちゃうのとおんなじなんだ。
!本当に僅かですが、若干血が出たり出なかったり、針を刺したりといった表現がありますので、
そこらへんは自己判断でお願いします。
二人とも四年生、臨床実習がはじまる前です
友人なんだか付き合ってるんだかわかんないよ書いてから気づいたがこいつぁ付き合ってるわけじゃねぇや しかしながら限りなく曖昧(時系列だけでなくて時系列にそった関係、すらも無視して書くからこんなことに)
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演習室に向かいながら、綱吉はため息をついた。
ちらりと視線を隣からやってくる骸に、両手に抱えたファイルに目を落としていた綱吉は顔をあげた。
「な なぁ骸さん、やっぱ血糖測定の演習ってアレかな、血だしてその血糖値を測定するのかな。ほんとに演習でやるのかな」
二年かそこらのときに採血の演習は経験して、自分の身体をちょっとくらい傷つけるようなものは経験済みだし、最近の傾向では侵襲的な演習なんてほとんど少なくなってきているのだが、それでも侵襲的な演習は少しブルーである。
「まぁそうでしょうね。君は血糖測定の経験もないナースに指や耳に穿刺されて血を絞り取られたいですか?」
「い いやだ……」
「多少なりとは経験しておかないとね」
「そ そうデスネ…」
「クフフ、大丈夫ですよ、ちゃんと僕が相手してさしあげますから」
「お前だからいやなんだってば…」
いやな感じの笑みを見せる骸に、綱吉はうめいた。
骸はわざと針をぐりぐりやるんじゃないかとか、やたら時間かけるんじゃないかとか、色々考えてしまうのである。
糖尿病の患者にとって、血糖値の変動とはダイエット中の女性の体重の変動より遥かに重い意味を持つ。過ぎた低血糖、高血糖は昏睡→死につながることもあるためだ。
血糖測定というのは、その糖尿病の患者などの血中の糖濃度を測定して、病気をコントロールするための指標にする測定である。
非常に簡便な検査方法で、ペンのような形の専用の細い針をワンタッチで指先や耳たぶに穿刺する。
そして、そこから得られた少量の血液を専用の読み取りチップのついた血糖測定器で測定する(血にチップをくっつけて、血を少しすわせる)。
つまりプスッとさしてチュッと血を吸わせて、血糖値をみる。
といったもので、病院での測定だけでなく、家庭で糖尿病を持っている患者自身でも自分の血糖値を把握できるように開発されているシロモノである。
これは毎日毎回、薬であるインスリンを使う人は測定しなければならないシロモノなので、この使い方を主にナースは教える必要がある。
というわけで、そのための演習が必要、ということになる。
ひととおりの説明を受けて、骸と綱吉は向かい合って机を横にして座っていた。
机の上には、先ほど配られた血糖測定に関するコンパクトな機器やアルコール綿がゴサゴサ置かれている。
「さっ、じゃあやりますか!」
待っていましたといわんばかりのニッコニコとした笑みを見せながらチャッチャと手際よく穿刺や機器の準備をしている骸に、綱吉は縮み上がった。
「もっ、もうしちゃうんですね!そ、そっかぁー!しかも俺から刺されるんですね!」
「何ですか綱吉君、君いつも”俺やり方がまだいまいち判んないから、さきに骸さんやってくれるかな”ってお願いするじゃないですか。いわば僕は毎回デモンストレーションを君にやってみせてるようなものなんですよ」
「そ、そりゃあまあそうなんだけども、心の準備ってのが…」
ひきつった表情で胸元をおさえる綱吉の頬に、眉を下げた骸がソッと手を添えた。
「ああ、そうですか心の準備がね……じゃあ先に君が穿刺しますか、まあどちらからでも僕は楽しめるんですけどね」
「いいいいいです!!変な言い方するな!!」
「クフフ、まったく過敏ですねぇ君は」
ゆるやかに口角を上げながら、骸が綱吉の片手をとった。(ちなみに綱吉は気付いていないが、周りの一部の生徒は必死に見ない/聞いてないフリをしている)
今回の演習では指先に穿刺するので、すぐに十分な血液が出るよう穿刺部位をよくもんで、血行をよくしなければならない。
十分な量の血液が得られない場合は、場所を変えてもう一回針を突かなければならないので、失敗はしないほうがいい。
……しかしながら。
「ね…、ねえ骸さん…そんな、掌のほうから揉まなくてもいいんだけど…手のマッサージじゃないんだから」
その指ぐらいを揉むので十分なのに、ネットリしつこすぎるその揉み方に「チョ、チョット」みたいな気分になって綱吉は呻いた。
「何を云うんですか。念入りにしないと、こういうことは」
「俺の指の先もう普通に充血してんじゃん!もう十分念入りだよ!」
「チッ、じゃあそんなに早く刺してほしいなら刺しますよ」
言うやいなや骸は、不安になるほど手早い動作で消毒を終えて、穿刺針を内包したペンのようなものを手にしてジャッと乱雑にダイヤルを回す。
このペンについてるダイヤル、大きい数字に回せば回すほど針が太くなるので、綱吉は目をむいた。
「ちょっ!!なるべく細い針ね!細い針にしようね!!」
だいたい1もしくは2の数字にダイヤルをあわせて穿刺する。綱吉としては是非とも1で穿刺してほしいところだ。
だが、そんな早くダイヤルを回したら……!
「え?ああ……これはこれは。すみません、3になってしまいました」
「エッ?!ちょ…ッ!どうにか戻…っ!!」
身を乗り出す綱吉の指先に、容赦なく(特に先がとがってるわけでもないが)ペン先をぐっと押し当てる。
このペン、先の細くないボールペンのようなもので、ペンのとある箇所を押すとバチンッと瞬間的に針が出てひっこむので、簡単に穴を安全に開けられる仕組みになっている。
「い…っ、いやだああ!」
綱吉が叫んだ瞬間、方々から「い、痛いコレ結構!!」「先生ー、1でやったんですけど血が出てきませんー」「じゃあもう一回、今度は2の太さでやってみて」「に、2って痛いよけっこう!」「イテッ!!」「そうでもなくない?……あ、いや、後からなんか来る。じんじんヒリヒリ痛いかも」「先生これ結構痛い!」とかいう情けない声が綱吉の耳に飛び込んできた。
「ちょ…っ、待って待って!!2で結構痛いとか言ってるよ?!考えなおそうよ骸さん!」
「君と僕との仲をですか」
「そんなもんどうでもいいよ!その押し当ててるものを今一度、さ!少しでも優しさっていうのが骸さんにあるんなら―――」
バチンッ!!
「イ゛…ッ!!」
鋭い痛みとともに穿刺の衝撃が綱吉の指先に走った。
ぷくりと血の玉が浮いて、そこからジンジンと痛みが指先に拡がっていく。
「イ…ッタぁーー、」
顔をしかめる綱吉を、ひどく楽しそうに骸は覗き込んだ。
「あーあ、耳を疑うようなことを綱吉君が言うものだから、つい手が滑ってしまいました」
「み、耳を疑うようなこと言ったのはそっちだろうが!イッッタイっつのコレ…!」
ぷくうう、と十分すぎるほどに血の玉が浮いているそれを見て、さらに綱吉は顔をしかめる。
「ああ、3でよかったんじゃないですか?結構出てる…ほら」
綱吉の(血が出ている)指の第一関節と指先を、よりによってぎゅうと骸は指先で更に血を搾りだすように圧迫した。
ぶわあ、と更に血が溢れる。
「ギャ、ギャアアア!何てことするんだ!鬼!」
「大げさですねぇ、十分な血液を出そうと思ってちょっと出しただけじゃないですか」
「もう十分すぎるほど出てたよ!」
「アレですか、イタ気持ちいいってやつですか」
「イタイしか無いよ!!」
「クフフ…、」
骸はニヤニヤ笑いながら血糖値測定チップに血をすわせる。
しばらくしてからピピッという電子音がして、血糖値が出されたことを知らせた。
チラとだけそれを見て骸は「きわめて正常範囲ですね。むしろちゃんと今日ごはん食べました?」と聞いてくる。
「た、食べたよちゃんと」
「小さな菓子パン一個食べるのが食事だとは認めませんよ、僕は」
「………」
沈黙する綱吉に、フゥーと骸は嘆息した。
「水分は。摂ったんですか」
「の…飲みました……」
「何を。どのぐらい」
「や…ヤクルトを…一本…」
「認めません。君ただでさえあまり水分摂らないんだから、普段からちゃんと水分補給しなさいって言ってるでしょう」
「…………ハイ…」
(い、いいじゃんか!俺苛めるぐらいだから俺の食事なんてどうだっていいじゃんか!それに骸さんだって飲み物あんまり飲まないし…あ、でもこれで俺が痛いのは終わりだよな…)
やった、といった感じに少しソワソワしていると、骸が眉を下げて口角を上げた。
「それにしても、あーあ、残念。あっというまに終わっちゃいましたね」
残念そうな顔をしながら、アルコール綿を手に取る。
「い、いや、だってこれってこういうもんだし!後は俺がやって終わりな!」
ソワつく綱吉の声をスルーして、片手でその手を取って、アルコール綿を押し当てるかと思われた出血部位に、しかし骸は顔を近付けた。
「エッ もしもし骸サン?」
「勿体無いから、舐めちゃいましょうね」
「やっ やっ ヤメローー!!」
必死にグイグイ手を引き戻そうとするのに、掴まれた手首はビクとも動かない。
ちろりと出された紅い舌が、傷口の上をざり、と滑った。
そのまま舌先で傷口を抉るように、ぐにぐにとゆるく穿つ。
「ッ……、」
ピリッと指先に走った痛みに、目を閉じて綱吉は息を詰めた。
するとぬとっとした生暖かい口腔に、指先が含まれた。
「ああ、直に君の体液を啜るっていうのは、なかなかたまらないですねぇ」
うっとりと伏せた目のまま、ちゅうう、ちゅば、と音をたてて更に吸い出す。
カリ、ゆるく歯を立てられて、痛みに綱吉は眉を寄せた。
「や…っ、やめて…!!」
骸の肩を押し返そうとするその手首を掴んで、吐息だけで笑う。
他のこと一切を少しでも忘れてしまったかのように痛がるその姿に、昏い興奮を覚えながら骸はちゅぱ、と唇を離した。
満足したかのように目を弓なりにしならせて、笑みを浮かべる。
「痛かったですか?」
「痛いよそりゃ!!やめろよこんなこと!!」
「クフフ。雑菌が傷口から入って炎症が起こるかもしれませんね。そうしたらしばらく君の痛がる姿が見れるわけだ」
「お…っ、お前…っ、もう、俺のこと嫌いなんだったらはっきり言えよな!そう言ってくれたら俺関わらないようにするとかできるのに――」
バン!!
「っ!」
いきなり横の机をものすごい勢いで叩いた音に、演習室が一瞬シン…と静まり返った。
しかし、音の中心とその目の前にいる綱吉を確認すると、”なんだ”といった様子で再び元のざわつきに戻った(しかし音の発信主の怒りオーラに推されてか、先程より控えめである)。
秀麗な顔を壮絶に不機嫌な色で歪ませている向かいで、綱吉は固まったまま言葉を失っていた。
「誰が。いつ。嫌いだなどと言いましたか」
(そ…っ、その威圧的な態度がもうそのまま何かを物語ってるじゃんか!!)
脳内の綱吉の突っ込みは、当然のことながらこの凍りついた空気の中、口にすることはできない。
「いつも思うんですけど、君それ、わざとなんですか?」
(なっ、何が?!何が?!)
と思っても、とりあえず首をただ横に振ることしかできない。
「わざと」、というのが何のことかわからないのだから、とりあえず「わざと」じゃないだろう。
「―――まぁ、そこにつけこんでるのは僕なんですけどね」
机に頬杖をついて、がしゃ、と器具を綱吉のほうに寄せる。
骸を伺うと、くいっと顎をしゃくられた。
「君の番です。どうぞ」
「あ…っ、う、うん…っ」
ずい、と腕を差し出されて、あたふた器具の準備をはじめた。
監視するかというほどに威圧的な人間を相手にしての、初めて経験する類の侵襲的な演習である。
(やっ…、やりにくーーっ!!さっき覚えたこと全部吹っ飛んだ!頭まっしろだよ!)
「えっと…」
モタつく綱吉に、半眼の主から剣呑なアドバイスが飛んでくる。
「違います。さきにあっち」
「あ、そっか…」
それにしても彼の怒りのポイントがいつも判らない。よくわからないところでよく判らないときにキレるかと思えば、こんなこと言ったりされても大丈夫だろうかという時にはゴキゲンだったりする。
出会った頃こそ本当に悩んだものだが、しばらくすると機嫌がなおっているので今ではそれほど深刻に考えることもないが。
しかしながら綱吉にとって骸は、未だにいまいち掴めないところのある人物だった。
自分に悪意を抱いているのか好意を抱いているのか、これほど量りかねる人物も珍しかった。
(まぁ…、俺は別に、なんだかんだいって骸さんって悪いやつじゃないし、嫌いじゃないからいいんだけどさ。これでマジで嫌われてたらちょっと哀しいなって思うけど)
「じゃ……、じゃあいくよ、骸さん」
「1でいいんですか」
「え?」
「太さ。1でいいんですか」
「え…っと…、う、うん、細いほうがいいかなと思って…」
おずおず指先にペン型穿刺器具をあてる綱吉に、骸は無言で何度か頷いた。
「じゃ、じゃあ…」
(うわ…っ、これ、刺されるより刺すほうが気分的にイヤかも…!)
相手の指先に器具を容赦なく押し付けて、十分穿刺されるようにボタンを押すのである。
なんだかためらってしまって失敗しそうである。
う…、と踏みとどまっている綱吉に、骸は吐息だけで小さく笑った。
「どうしたんですか。刺せない?こんな状態で相手を待たせちゃ駄目でしょう」
「で…っ、できます!できますよ!」
エイヤ!とばかりに勢いをつけてボタンを押したが、
バチンッ!と飛び出てくる針の衝撃に跳ね返されて少しペンが浮いた。
「あ……、」
見ると、かすかに傷がついているだけで、ほとんど血液が出ていない。
「無理ですね、これじゃ」
「ご、ごめん骸さん……」
肩を落とす綱吉の横に、ダイヤルを設定しなおしたペン型穿刺器具を置く。
「もう一度です。今度は2の太さで、しっかり指先にペン先を固定したまま穿刺してください。僕は大丈夫ですから」
「う…、は、はい…」
「クフ。まぁ、小動物か何かみたいにあまりにもおそるおそる、イヤイヤ穿刺する君を見てるのも楽しいんですけどね。そろそろ時間なので」
「えっ?あ…っ!」
綱吉があたりを見回すと、大体の生徒が演習を終えて、あーだこーだ言いながら記録を始めていた。
そろそろ授業も終わろうとしていた。
「はー…!よかった!!無事におわった!」
無事血糖測定を終えて記録も終えて、演習室を骸と後にした綱吉は、ホッと肩の力を抜いて歩いていた。
「僕としてはあんまり無事じゃないんですけどね」
「だ、だから二回も穿刺してゴメンって骸さん!でも俺だって痛い思いしたしおあいこじゃんか」
「別にそのことなんてどうでもいいですよ。どうやったら君は思い知るっていうんでしょうね」
憮然と前を見据える骸に、綱吉は言葉を詰まらせて、困ったように眉を下げた。
「…なぁ。俺、なんか、骸さんの気に障ることしてるんだよな?俺結構そういうのわかんないみたいだからさ、でも俺悪気は無いんだ。俺は骸さんって結構面白いし本当はヤな奴じゃないって知ってるからさ。一緒にいて本当に厭なわけでもないし。それに、こう言ったらアレかもしんないけど、骸さんも俺のこと全部を心の底から嫌いなわけじゃないよな?何かが気に障ってるんだよな?…だから、よかったら、教えてよ。
俺、出来る事なら、気をつけるから」
「っ……、」
淡々、おだやかな調子で告げられたそれに、一瞬骸が動きを止める。
「?…」
立ち止まった骸に、これすらも機嫌を損ねることになってしまったかと、綱吉は立ち止まって振り返る。
すると、子供がむずがるみたいな、何ともいえないくしゃっとした表情をして骸が突っ立っていた。
「骸さん…?」
ありえないことだが、泣くんじゃないか、と思って綱吉は思わず骸に近寄っていった。
「…別に、いいんです。違う。判ってるけど判ってない君のそれは、君の所為じゃない」
近寄る綱吉を避けるように、骸は再び歩き出した。
「むくろさ…」
「…そこまで判ってるんなら、君が厭じゃないんなら、今のところはそれでいいです」
すれ違いざまに、フワっと頭を軽く撫でる感触がした。
通り過ぎていった骸を、少し首を傾げて見つめると、彼はくるっと振り返ってにっこりと満面の笑みを浮かべていた。
「まぁ、そのかわり好き勝手させてもらいますけどね」
そして再びくるっと踵をかえして、スタスタ歩いていく。
「?…あ、ちょっ、待ってよ骸さん!」
今までのは好き勝手じゃなかったの??などと思いながら綱吉は後を追いかけていった。
彼が「それでいい」と言っているのだから、きっと追いかけても大丈夫だろう。
廊下にせわしない足音と喋り声が響いていた。
終
「結構出てる…ほら」←この言葉だけ取り出すと中々いかがわしく見えてアレまぁと思った