どこを切ってもパラレル

  怪談話ゆり  



えっと。モットーは「書けるものを書きたいときに書く」です(笑)
(結局のところ、ひばつなは軽いジャブ扱いなんですがすみません本当に)

皆オニャノコ:小学校中学年ぐらい(3,4年ぐらい)→途中から中学生になるけども
登場するのは ツナ、雲雀、骸(残念ながら三つ巴ではありません)


ツナは、ひとけのないシンと静まり返った病院の廊下のすみっこを、ビクビクしながら歩いていた。
(ひっ、ひるまに、ひばりさんが、あんな話するから)
目指すはトイレ、昼間はあんなにすぐの距離が、今はやけに遠く感じられる。
おんなのこなのに、男の子とケンカするとやたら強い、そのくせ結構体調を崩しがちな雲雀と、気管支喘息を患っているツナはよく病棟で会う機会があった。
もっとも病棟でなくとも、家が近所なので普段もよく会うのだが。
今日も雲雀の病室で二人でトランプなぞして遊んでいた。
かわいいわねぇと大人たちは目を細めるが、ゲーム内容はブラックジャックだのポーカーだのといったプチカジノのような内容である。
これは雲雀の趣味で、最初はさっぱりルールのわからなかったツナも、雲雀に(たまにポコスカ殴られながら)教えられてようやく色々と相手ができるようになった。
たまに、何か賭けられることもある。といってもそれはお金やモノではなくて、大抵はツナの時間である。「ウチの病室で一緒にごはん食べてよ」とか「一緒に売店行ってよ」とか「明日も来なよ」とか。
別にツナはそんな賭けにされなくても応じてやるのだが、賭けをしてゲームに勝った雲雀がいつもよりも生き生きとそれを要求するので、賭けにしたほうがいいのかなと思って付き合っている。
ただ、「じゃあ今日ウチの病室でいっしょに寝てよ」には少しこまった。看護婦さんがこまっていた。

まぁそんな流れで、今日の彼女の要求は「だまって怖い話聞きなよ」だった。
ツナは人並みかそれ以上に怖い話が苦手である。それがわかっているので敢えて一戦交えてから、という彼女なりのコレも優しさなのである。
しかしながら、そのわりに容赦がないところも雲雀らしさといえる。
今日のゲームはブラックジャック。
手持ちのカードの合計が21になればビンゴ、なるべく近い数字で高い得点が狙える、が…
ツナは手持ちのカードを穴があきそうなほど真剣に見つめていた。
合計は16。このままでは確実に負けるだろう。相手が数でオーバーしない限り。
(どうしよう。どうしよう、でも…)
5以上の数字が次の手札で出たら、どぼん。数字の合計が21以上になるのは論外である。
それこそ確実に負ける。
「どうしたの?もうストップ?」
「ぃ、いやいやもうちょっと待ってください」
楽しげに目を細めて聞いてくる。やばいぞ、アレかなり余裕の顔だ。16なんかじゃ太刀打ちできない。
「ほらツナ、はやくしないとお昼ご飯がくるよ」
「わ、わわわかってますよ…!!あ、ぅ、も、う、」
頬杖をつきながら機嫌よくせかす雲雀に、おもしろいほど急かされる。
わたつきながらも、えぇい!とばかりにカードをとった。
ハートの4。手持ちカードの合計数、20!
「やった!!」
思わず顔をぱぁっと輝かせてツナが叫んだ。その様子に雲雀が目を瞬かせる。
「いいですよ雲雀さん、もう大丈夫です」
「ふーん、そう。じゃあ、はい」
カードを見せようとそわそわしていたツナの前に無造作に見せられたのは、
合計数21。
「…………」
「ブラックジャック。君もそうなんでしょ?」
…んなわけないじゃん…
ガクリとツナは項垂れた。
「負けましたよ……」
力なくみせた手札を見て、ぱっと雲雀の顔が明るくなった(ような気がした)。
「じゃあ、怪談スタートだね」
「待っ、ちょ、いやだぁああ…!」
しかしながら、そのわりに容赦がないところも雲雀らしさといえるのだった。


「この病院って結構ふるいんだって。まぁ建物が建物だしね。あるていど古いとは思ってたけど」
「はぁ。そうなんですか」
おもわせぶりな語りからはじまった。ツナは微妙に視線を外のなごやかな風景にそらしながら流し聞きしていた。
「それでね。ちょっとちゃんとこっち向いて聞きなよ」
「いぐぇッ!」
ぐきっと音が立つかというほどに一気に首を戻されて変な声が出る。
言葉に出すと同時に行動に出るのを何とかしてくれと本気で頼みたいが、未だ言えたためしはない。
「…で、この小児病棟は特に初期からあるらしくて。昔は結核とかの小児専門隔離病棟に使われてたこともあったんだって。子どもは特にバンバン死んだらしいよ」
そうとうふるいのは判った。人死にが多かったのもわかった。判ったから、あんまり言われると自分の病室にある壁のシミが異常なほど気になりだして怖いのでそこらへんでやめてほしい。
しかしそんな想いが届くはずがなく、仮に届いても余裕の表情でカキーンと弾き返すだろう人間だった。
「…で、あのトイレね。すぐ近くにあるあのトイレ。あそこも随分キワまで昔は病室で埋まってたらしいんだよね」
言葉もなくツナは頷く。あえて言葉を出せといわれたら、へぇそうなんですか、としかいえない。
「だからかな。12時を何時間か過ぎた真夜中にね。その付近に、…つまりトイレに、出るんだって。遊び足りない子どもの霊が」
「ちょ、も、ほんとやめてくださいよ」
小刻みに首を横に振る。
あのトイレなんていつもいつも使っていて、もう何回お世話になったかわからない。
そのトイレで何だって、何が出るって?
「ドアをしめて真夜中に用を足すじゃない、そうしてるとね。人の気配がするんだよ。誰かトイレ待ってるのかなって思うじゃない」
「ああまぁそうですよね、他のトイレ使えばいいのにほんとに」
「そう思ってフっと顔をあげるとね、居るんだよ」
ツナは目をとじた。いわないで。

「上からのぞいている子どもが」

「だぁからもーーー!!ほんと勘弁してくださいよ雲雀さん!!!」
ばふっと布団に頭をうずめたツナを嬉しそうに眺めて、雲雀はその頭をくしゃくしゃ撫でた。
「まぁ、夜のトイレがこわかったら僕んとこにでも来なよ。安眠を害されても一緒に行ってあげるから」
「だ、誰のせいだよ本当にもー!!」



(…って言ったのに、雲雀さん急遽外泊になっちゃうし…!!そんなのってないよ…!!!)
泣きそうになりながらツナはトイレに足を踏み入れた。電気がついて明るいけれど、トイレのタイルやくすんだ中がどぎつく照らされる照明はとてもじゃないが心のなぐさめにはならない。
今日一番足を踏み入れたくなかった場所、個室のトイレ。
(あんな話、ほんと、あとからボコられても耳ふさいで聞かないでおくんだった…)
安請け合いしたことを非常に後悔する。今度からもっと気をつけよう。
震えそうな体をなんとか落ち着かせながら、なるべく周囲に視線を散らさないようにしながら、さっさと用をすませてしまおうとそそくさとトイレに入る。
もう一分一秒だってここには居たくなかった。
大丈夫だ、ちょっとの間ぐらい、幽霊なんて…

しかし、服に手をかけた瞬間。
(!……)
何か視線を感じたような気がして、ツナは動きをとめた。
(き………っ、気のせい、気のせい、気のせい…、だと思いたいのにーーー!!)
泣きそうだった。
気になって仕方がない。主に後方頭上が気になって仕方ない。
(誰かトイレ待ってる…わけないじゃんか!ほかにもトイレ空いてるってのに!)
つまり、要するに、これは。
(いやだ 振り向きたくない けど振り向かないと、もっとこわい気がする)
『そう思ってフっと顔をあげるとね、居るんだよ』
雲雀の言葉が脳内でリフレインする。
(う、  うわあああ、 もういやだ、いやだ、もういいよ、もう居ればいいじゃん何でも!!
とっくに尿意なんてなくなっている。
ツナはヤケになってきていた。
どうせ帰るためには振り向かねばならぬのだ、どうせ居たって子どもの霊だ、だいじょうぶだ!!
そうやって自分を奮起させて歯をくいしばって、ツナは振り向いた。
そうしたら案の定、
ドアの上からのぞく顔が、
「………ッ、☆○×△!#〜〜!!!」
もう声にならない。
ぎゃあ とか、 出た とか、ツナの脳内では盛大にいろんな単語が飛び交っている。
いる。いる子どもが。といっても、ツナと同い年かツナより年上かもしれない。
おんなじ病衣を着て男の子か女の子か…はちょっとわからないが、ショートからセミぐらいの髪の、
ちょっとおとなびたような顔立ちの、
(なんでこんなタイミングよく出るんだよほんとに!!勘弁してほんとに!!!)
…とにかく、泣きたい。

すると相手も、バッチリ目があった瞬間から軽く目を見開いて驚いたような顔をしていた。
「君、僕が見えるんですか?」
「〜〜〜!!!」
相手がフワリと頭上から降りてくる。天使か何かか。いや違う。天使は病院の寝衣なんて着てないきっと。
おもいっきりガン見しながら首を横に振る。ほんとは見えてないって言いたい!でも答えちゃった時点で見えてるってバレちゃってる!!
「ごめんなさいごめんなさい何にも手伝えることとか一緒にどっか行くとかそういうのは無理なんですごめんなさい」
後生だから命だけはご勘弁を、と必死に指を組んで懇願すると、相手はたまらないといったふうに噴き出した。
「ちょ…っ、クフッ、ハッ、心外ですけど僕はそういうことしませんよ。ただちょっと散歩してただけです」
さ、さんぽ。ちょっと上のほうをですか。
「そうですねぇ…どうしようか迷っていて…ちょっと退屈してたんですよね。ふむ…」
ひとつ呻くと、その人は考え込むように口元に手をあてた。
やがて何かを思いついたように、顔を上げる。
「君、ちょっとでいいですから一緒に遊びませんか」
「え、 う、」
「とって喰いやしませんから」
「!! あ、 えと、」
心を見透かされたかと思ってギクリと肩をこわばらせたが、おず、とツナは相手のほうを見た。
たしかに、何か落ち着いた感じはするしおとなびた感じはするけど、すごく怖そうな感じとかはしない。
このひとなら、ちょっと遊ぶぐらいいいかな。いいかもしれない、大丈夫かもしれない。
ツナはちいさく頷いた。
「うん、わ わかった、 な、 なにしてあそぶ…?」
ちょん、と手を差し出すと、相手は顔を綻ばせて手を取った。
あ。触れるんだ。
「じゃあ、夜のお散歩にいきましょう」
抱えられた瞬間、フワリと体が浮いて、今度こそツナはギャアアと悲鳴をあげた。
これお散歩って言わないから!!!!




「――っていうさぁ、すごい不思議体験をしたんだよね昔」
お弁当にはいっていた卵焼きをかじって、ツナは肩をすくめた。
同じ席で一緒に昼ごはんを食べている骸は先ほどから黙ったままだが、話をちゃんと聞いているのだろうか。
まぁいいか。
お茶をのんで、話を続ける。
「でね、後から知ったんだけどそのとき実は気管支喘息の発作で、チアノーゼになって酸素たりなくて意識消失してたらしいんだよね…だからこっちも幽体離脱してたのかも」
あの夜の空中散歩、はじめは怖かったけど結構楽しかったな、などと言いながら更にごはんをほおばる。
すると、向かいに座ってずっと視線を斜め下に落としていた骸が、ぽつりと呟いた。
先ほどからサラダを食べる手が止まっている。
どうしたんだろ。ダイエットなんてする人じゃないのに。
「……で、そこまで思い出しておいて他に何か言うことはないんですか」
「えっ、他?……他っていってもなぁ…、なんだろ、あの子ヘンな子だったなぁ…そうそう、そのあと雲雀さんにそのこと話したら”何いってんの!そんなのにホイホイついていっちゃ駄目じゃない!!”ってもんのすごい剣幕で怒られたっけ…」
「あの鳥の話はいいですから。他には?何か言うことや思い出すことがあるんじゃないですか」
「えぇえー…?何期待してるのかしらないけど骸さん、もうこれ以上面白い話は出てこないよ、残念だけど」
「…だから!!もう!!」
だん!とフォークをつぶさんばかりの勢いでつかんだまま机を拳で叩く。
(え、ええええーー!なんで!)
対するツナはわけがわからずドン引きである。何でいきなり向かいの美人が怒っているのかわからない。
そうか、さっきからおとなしかったのは怒ってたからなのか?
机をたたいた瞬間、反動でサラダのドレッシングがセーラーカラーに結ばれているリボンにはねてしまっているではないか。
いやいや、そこまで怒られても。
「あ…っ、骸さん、リボンにドレッシングが…」
素で若干ビビりながらも、おずおずとツナはリボンを指差す。
しかし骸は剣呑に眉を寄せた。
「何ですか。舐めて綺麗にでもしてくれるんですか」
声が低い。
「し、しないよ!何いってんの!!」
どうやら虫の居所が悪いらしい。
たまに(いや、結構頻繁に)骸はツナにはアダルトすぎる冗談をいう。また何かしら発作が出たらしい。
もっとそういう話のつうじる人に言えばいいのにと前漏らしたら、こんな感じにキレられた。何をいったら怒られて、何をいったら怒られないのかそろそろちゃんとしたマニュアルがほしい。
「――君って、人の名前とか顔を覚えるのが極端に苦手なんですか?」
「え…っ、そりゃ…、そんな得意じゃないけど、さすがにそんな昔の、しかも一度しか会ってないような幽霊のこといわれても…」
チッ、と舌打ちまでされた。
(ちょ、なんだその”ったくこの馬鹿は”みたいな態度!そこまでコケにすることないじゃんか!)
「あのさ骸さん、何なのさっきからなんか人のことばかにしてさ。何そんなに怒って―――!」
むっとして不平を漏らしかけたツナの顔に、至近距離までその怒りの顔をつめて骸は盛大に眉をしかめた。(キスでもしたかと勘違いした周りがひそかにざわついた事を二人は知らない)
「ほんっっっとーーに、覚えてないんですか。君」
「は…、、…え?」
思わず身体をひけば、それにあわせてズイと骸も身体をつめてくる。
覚えてないって何。何のことだ。そこまでその幽霊の事で思い出さなければいけないことが何かあったか?
フーーと息を吐いて、骸は身体を椅子に戻した。
「……僕も、その病院に入院してたんですよ」
「あ、そうなの?同じ病院だなんて偶然だね」
「………」
まぁ家も近いしここらへんで大きい病院なんてあそこくらいだよねーと暢気にのたまうツナに、骸はひそかに目元を覆いたくなった。
「あっさりしすぎなんですよ君は…」
「そうかな…」
骸さんがねっとりしすぎなんじゃないかなとは、とてもじゃないがツナは口にできない。
「僕はね。覚えてるんですよ。君と少しだけだけれど遊んだこと」
食べるでもなくサラダにフォークを絡ませながら、骸は視線をどこかにおいたまま呟いた。
「えっ?!会ったことあったっけ?小児科の病棟に?いたの?」
「小児科の病棟というか、まぁ……だから、君がさっきから幽霊だ幽霊だと言っていたのは、僕のことなんですよ」
「え………っ、 えっ? ま、 えっ??」
さっきまで塵ほども繋がらなかった幽霊の子どもと目の前の骸が、ようやく頭の中で(半強制的に)繋げられて、ツナは口をパクパクとさせる。
そういえば。
面影があるといえば、ある、かも。
左右違う目の色は、あのときは暗くてわからなかったけど。
そういえば喋り方とか、髪形なんてそういえば、そういえば!!
「あ…っ、あーーっ!え、ほんとに?!あのときの?!」
思いっきり相手を指差して驚きの声をあげる。
「だから。さっきから言ってるじゃないですか。僕はずっと覚えてたのに、君は覚えてなかったと」
骸からじろりと視線をすえられて、ツナは肩をすくめた。
「ご、ごめんて……、 だ、だってそんな、一回だけじゃん会ったの…しかもあんな…」
幽霊みたいな登場の仕方を思い出す。
そうだ、トイレで上から――
「そ、そうだよ!じゃあ何だよあの登場の仕方!トイレの中覗くことなくない?!すんげー怖かったんだけど!!」
”トイレの中”発言で再び周りがざわついた(人は奇抜な単語のみを耳で感知してしまうことが、ままある)。六道さんは沢田さんのトイレを覗く中なんだって、キャー!的な黄色いテンションが周りを包む。
相変わらず二人は気付かないが。
「だって僕もう自分が死んだかと思ってたんですよ。だったらいっそのこと幽霊としての暮らしを満喫しようかと思って」
「どこまで適応能力高いんだよ!もう何年も前からいる幽霊みたいな雰囲気出てたぞ!―――って…」
いつもの調子でつっこんでから、ふとツナは動きを止める。
だったら、じゃあ、目の前に今いるのは?
「え っ、 まってまって、骸さんでも今ちゃんと生きてるんだよね?」
不安げな顔をして伺うように首を傾げるツナに、ゆっくりと骸は口の端をあげた。


「…あれ?言ってませんでしたっけ?僕は霊力が強いので霊体でも実体をもつと」


「…ギャ、ぅむぐっ!―――!!」
絶叫しそうになったツナの口を、サッと骸が掌で塞いだ。
バンバンと机を叩くツナの前で、骸はくつくつくつと喉を鳴らす。
「そんなわけないでしょう、たとえ霊であっても生き返ってやりますよ」
あいかわらずタチの悪い冗談を好む人間である。ツナはこれにいつもだまされる。
口から手を離されてぷはっとツナは息を吐いた。
「び、びっくりしただろもう!お前が言うと何かシャレになんないんだよノリ的に!」
「クフフ、そうですか?それは光栄ですね」
先ほどとは打って変わってニヤニヤ笑いながらツナの口元を押さえた掌をペロリと舐める。
非常に不可解な表情をしていると、それに気付いた骸がニコリと目元に笑みを見せた。
「ちょっと(君の唾液が)ついてしまったので」
言わなくてもいい。
それからそういうのは拭けばいいと思う。
ヘンな子だと、思う。
「はぁ、それにしてもまったく――…あれ、じゃああの時なんで…、え、あの時も普通に生きてたの?あれ、でも」
夜空をフヨフヨ飛び回ったんだけど。
キョトンとしてツナが動きをとめる。
カラになった弁当に中途半端に箸を構えるツナの口にサラダを放り込んでやりながら、骸は頬杖をついた。
「だから僕も君と似たような状況だったんですよ。少し大きな手術をしてましてね。手術直後のICUでちょっと容態が急変したらしくて」
「あ…ひゃあ、へ、ひにはへっへひゃふ?」
「ちゃんと口のなかを無くしてから喋りましょうね」
もしゃもしゃサラダを頬張りながら”あ、じゃあ死にかけってやつ?”と問うたツナの言葉をそれでも聞き取って、骸は「そうですよ」と肯定した。
「君と遊んだときに、この子も死ぬんだったら僕もこのままでいいかなと思ってました。まだ幼かったから、そうしたらずっと一緒に居れると思って。けど君は…」


『やべっ、はやく帰んなきゃまた怒られる…、な、また今度遊ぼう?』


「戻るつもりの君に、”また会えるよね?”って聞かれたら、僕も戻るしかないじゃないですか、ねぇ…」
独り言のように呟いて小さく吐息で笑う骸に、ツナは再び口を開きかけた。
「え、じゃあ―― ふぐっ!」
骸さん死ぬつもりだったの?と問いかける前に、再び口にサラダを突っ込まれた。どうやら残りのサラダは全部ツナにやる気らしい。
もしゃもしゃとサラダを食べながら、「ほっは」とだけ口にして、ツナは頷いた。
そうだったのか。よかった。またどっちも生きて会えて。
「そうですよ」
また、ちゃんとした形で聞いてもいないのに骸は返事を返した。
そういえば骸さんって、いつもこちらの少ないサインを読み取るのがうまいなぁと感心したことがあったっけ。
前それを言ったら、「そりゃあ、見てますから」と微妙な笑みと共にいわれた。それだけじゃ無理な気がするんだけどな。どんだけ見たってわかんないもんはわかんないよ。
「だから僕本当にびっくりしたんですよ。中学にあがったときに君を見て……、まぁ、君は何も気付いてないみたいだったから、忘れてるだろうとは思いましたけどね」
あれ、先ほどはやわらかかった声色に剣が増してきた。いつまで根に持ってんだ。
「そ そりゃだって、さぁ…」
「それでさっき君があのときの話をしだしたから、とうとう思い出したのかと思って僕はすごく嬉しかったのに。ぜんっぜん、欠片たりとも、結びつけて考えませんしね!」
グサグサと水菜やレタスにフォークをぶっさす。
う。まるで自分が刺されてるみたいだ。
怒ってる。怒ってるぞ何か。
何もまたほじくり返さなくても。
「だからほんと……、忘れててごめんって骸さん。謝るから」
「駄目ですよそれだけじゃ。もっと誠意を見せてください」
えらそうに頭をあげる相手に、ツナの顔がひくりと引きつる。
誠意のせの字を笑って蹴飛ばすような人間が、よく言う。
「え、じゃあ何。何すればいいの骸さん。購買の人気のデザートのおごり?お弁当をかわりに作ってくる?休みの日にケーキを骸さん家に持っていく?」
今までさせられた罰ゲームじみた行為を羅列するも、骸はゆっくりと首を横に振る。それではないと。
「君今度の休日、鳥と会う約束してたでしょう。映画を見に行くんでしたっけ?」
「え、まぁ、そうだけど…」
ツナもタイトルすら全然知らない映画で、雲雀に半強制的に約束を取り付けられた予定だが、たしかに行くっちゃあ行く。
「その予定はキャンセルです。その日は一緒に僕と遊園地に行きましょう。ちょうどこの間、新しくて怖いと評判のホラー施設ができましたから、そこへ」
冗談じゃない。しかも”その予定はキャンセルです”とか、どれだけジャイ○ンなんだ。
「い、いや…っ、むぐふっ!!」
当然のごとく拒否の言葉を発したツナの口に、再び最後の一口であるサラダがつっこまれた。
拒否権は、今回も認められてないらしい。
そういえば、スリリングすぎるあの時の夜空の散歩も問答無用で連れていかれたんだった。

幽霊だろうが何だろうが、変わんねーじゃねーかと思いながらツナは肩をがくりと落とした。
これから、もう一人のジャ○アンに謝り倒して予定をなかったことにしてもらわねばならない。

(仕方ないか…、ああ見えて骸さん結構ダメージ受けてたみたいだから…)
たしかにずっと気付かなくて思い出さなかったのも自分だ。逆の立場だったらかなり寂しすぎる状況だろう。
観念したツナはゴクリと最後の一口を飲み込んだ。
さらにペットボトルを片手に飲み物まで(拒否の言葉を発させないために)飲ませようとしてる骸に、ツナは手をかざしてストップをかけた。
「…わかったよ、わかったって、悪かったから。行くから今度の休み」
それを聞いてはじめて骸は手を落ち着けて、笑った。
「そうですか?…ふふ、よかった」



存外その笑い顔が(いつもの含みのある笑みではなくて)素直な笑顔だったので、ツナは拍子抜けしたように目を瞬かせる。
なんだぁ、こんな風にも笑えるんじゃん。
(…まぁ、生きてるからこそ、こんな風に言いたいこと言ったりしたいことしたりできるんだもんな、あんまりこいつの要求も拒否ったらかわいそうだよな)
うんうん、幸せに生きれればそれでいいんだよなと妙にしみじみとツナが頷いていると、満面の笑みのまま骸が指を組んだ。
「本当に楽しみですねぇ!ついでにあの遊園地、いろんな絶叫施設がありますからせっかくですしそれも回りましょうね!」
「イ、イヤだよそれあのありえない風に走るジェットコースターとかジェットコースターとかだろ!!それ死ぬほど嫌いなの知ってるだろお前!!お化け屋敷はいいとしてもジェットコースターは本当にイヤだよ!!」
「なんですかツナ君、お化け屋敷しか行かないなんて意味ないじゃないですか!それじゃ了承したうちに入りませんよ!」
「それ詐欺みたいなモンじゃんか!ほんともう勘弁してよ!!調子乗りすぎだお前!」



いくらなんでも、自分の幸せどころか平穏を破壊してまで骸の要求をホイホイ受ける気にはなれないツナだった。

安請け合い、キケン、ゼッタイ。


<終>


*********

この話が既にお互い知り合いの、大きい子だった場合




「…………」
ツナは半眼で頭上に見える見慣れすぎた顔を見た。
「…何やってるんですか、骸さん」
「いえ、普段見ることのできない光景でも見ようかと思いまして」
少しはにかんだような顔でクフクフ笑いながら、トイレの上から顔をのぞかせている不審者がいる。
「余所いってやってくださいよ骸さん、そんなショッキングなことされたから尿意がひっこんじゃったじゃないですか」
「ええッ?!そんな、せっかくがんばってここまで来たのに…」
「ほんと頑張ったみたいですよね!!開かないよドア!!どっから脚立持ってきたんだよオイ!!!」
ガタンガタンいわせながらツナがドアを開けようとしても、骸の持ってきた脚立に阻まれて外開きのドアは開かない。
やけにでかい脚立の上に立って、誇らしげに骸は頷いた。
「本当は竹馬で済ませようかと思ったんですけどね、苦労しましたよこれをもってくるの。だからほら、苦労に見合った報酬をくださいよ!」
「アンタほんとにいらない苦労ばっかりするよなぁあ!!通報モノだよコレ!!!」
「僕だってちゃんとこの後ここのトイレ使いますもん、僕はトイレ使いに来ただけですもん」
後でココ使うつもりだったんだ!リアルにきもちわるいよ!!それから”もん”とか言っても何も可愛くないから!」



楽しそうだったのでやった 後悔はしていない

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