玩具店

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  お待ちしておりました(5)  




はぁ、 はぁ、 はぁ、と息をつきながら、綱吉は薄目を開けた。
勝手に身体が痙攣するような気がする。絶頂のあと、生理的に何の刺激にも反応しなくなった僅かな時間を経て、陰茎が痛いほどに再び張り詰める。
陰茎へのローターは未だ続いていた。先程のように強くはなく、ゆるゆるとまどろむような振動が。
肛門からは既にバイブは抜かれている。ローションと精液の混ざった液体が、肛門と臀部、内腿にトロリとつたう。
ぱっくりと大きな穴があいたような、拡げられた穴が締まらないような頼りない感覚に、綱吉はふぅふぅと息を吐いていた。
「…クフフ、本当に、いいですね君。ここまでとは思いませんでしたよ」
骸の声が遠く聞こえる。
もういい、もういやだ、苦しい、快楽で死にそうだ、と思いながら綱吉はゆるく目を閉じる。
いっそこのまま気絶できたらどんなにいいか――――
「先程のは初歩の拡張みたいなものです。でもこういうのばかりじゃなくて、綱吉君にはもっと奥のほうも体験してもらいたくなりましたよ…」
しかし、それは許されるはずもなかった。
(初歩の、かくちょう……)
まるで先程のは手加減でしたといわんばかりの口ぶりに、綱吉は軽く眩暈を覚えた。次に与えられる刺激と快楽が既に想像の範疇を超えていて、綱吉は軽く背筋をブルリと震わせた。
「見てください、綱吉君」
クイ、と顎を掴まれて視線を戻される。
「…?」
ぼんやり視線を向けた綱吉の目が、一気に見開かれた。
「な……ッ!!」
長い。
先程とは比べ物にならないほど長い。
「クフ、驚きましたか?これは初級者から上級者まで楽しめるアナルバイブでね、入れる深さによって好きな長さで楽しめるんですよ。さっきのバイブの二倍は長さがありますね」
楽しそうな骸とは打って変わって、怯えたような顔で綱吉は小刻みに首を横に振る。
「む…、むり、むりだよそんな。こわれちゃう。中がこわれちゃう」
先程のアナルボールがそのまま棒になったようなバイブを、ぐにぐにと曲げたりして形を変えながら、骸は目を細めた。
「…なかなかそそる事言うじゃないですか。そうですね、イイところをずっと攻めていたら頭がどうにかなってしまうかもしれませんね」
「お、お願い、やめよ、やめて…、」
信じられないといった顔で綱吉は後ずさろうとする。
「おやおや、その身体で逃げられるとでも?」
クフフ、と笑って陰茎につながったローターのスライドを再び上げる。
「ヤ―――……あ…っ?」
強烈な振動で震えるかと思ったそれはしかし、思ったほどに振動は強くならない。
蠢くような弱い振動は、あまり変わらなかった。
「ああ…、やはりか」
小さく舌打ちをした骸は、どこからか電池を取り出してカチャリとコントローラーをいじる。
電池切れ。
あまりにずっとローターを連続で、しかも強めに使っていたためか、電池が切れかけてきたのだった。
「あ…」
駄目だ。電池なんか替えたら―――
「すみませんでしたね綱吉君、今度はちゃんと動くので」
「ィ ひぃいいいい―――!!」
ビーー!!と、痛いほどの振動が濡れそぼった陰茎につたわり、再び限界まで屹立する。
トロトロ先走りがあふれる先端にズチュ、ズリュ、と指を押し込めるように這わせて、バンドで固定したローターをひっぱるように先端まで下ろしてくる。
「ひぐぅうッ!!ヤッ、ア゛ッ、はぁああ…ッ!!」
ずちゃッ、ずちゃッ、ぬぢゅッ!と、震える鈴口と一緒にローターを握りこまれて強弱をつけて擦られて、ビリビリと痺れるような快感が綱吉を攻め立てる。
「ああ…、このくらいしておけばもう大丈夫ですよね」
ローターの攻めが幾分弱まり、ズプっ、と綱吉のアナルに、先程よりはラクに押し入ってくるものがあった。
かは、と綱吉は息を漏らす。
ローションや先走りの滑りにまかせて、その細めのアナルバイブはズブズブズブ、とどんどん奥に入ってくる。
ローターのもたらす意識ギリギリの快感と、アナルからのゾワゾワする感覚に、攣縮を起こすように綱吉の脚がブルブル震える。
「クふ……、すごい、あとちょっとで全部入りますよ」
「は…、や…ッ、おく…ッ、奥ゥ…ッ!!」
くぷ…、と全長20cmはあるバイブが全て綱吉の中に埋まった。
は、あふ、あく…ッ、と息ともつかぬ息をついていると、途端に中で振動が始まる。
と同時に、ローターの振動も強められた。
「ひぎぃい…ッ!!」
「このバイブのいいところは」
ヌ゛ポヌ゛ポヌ゛ポぉっ、と一気に引き抜いて、アナルの口からどうしようもない快感が綱吉の背筋を駆け上がる。
「ふあああッ!」
そうして、角度をつけて再びズプズプ突き入れる。
「はぁぐ…ッ!」
「スイングもうねる機能もついてませんが、角度調整が自在なのと長さがあるので、好きなところを好きなように突けるところがいいですね」
にたり、と笑いながらめちゃくちゃに中をかきまわし、突きあげる。
ずっとグチャグチャと前立腺の裏あたりをひっかきあげるように突きいれられて、強烈すぎる刺激が脳内でスパークする。
一気に押し寄せてきた射精感が、綱吉の脳内全てを支配して、どこかに持っていかれそうになって綱吉は目をむいた。
「いぎ…ッ!も、らめ、いっひゃ、いっひゃううぅう!!」
「クフ…っ、どうぞ」
ずくうう、とナカを擦り上げられた瞬間、びくんびくんびくんッ、と身体を震わせて、長く精液を吐き出す。
はっ、はっ、はっ、と犬のように舌を出してひたすら息をしていると、ずぽぉッと下からバイブを引き抜かれた。
「アひぃん…ッ!」
抜かれる刺激すら快感となって身を震わせると、上から骸が身体を被せてきた。
は、はふ、…と息をつきながら見上げると、伏せがちにされた骸のオッドアイが鈍く光って見えた。
「はぁ…ッ、もう少し後まで取っておこうと思いましたけれど、駄目ですね。もうこらえがきかない」
「な、なに…ッ?! ――――ッ!!!」
ひいいいっ、という声が、吐息とともに飲み込まれた。
先程に比べると圧倒的質量を持った熱が、ぎちぎちいわせて後孔に侵入してきたからだ。
下肢の衣服をいつの間にかくつろげた骸が、情に濡れた顔で綱吉に覆いかぶさって、更に腰を進めた。
「あぐうぅう…ッ!!」
エラの張った部分がミヂミヂと中に押し入って入りきると、反動がついたようにズルウウ、と更に奥へと入っていく。
グッ、グッ、と陰茎全てを埋めると、今度は再びずちゅう、と抜く。腸がひっくりかえってひきずりだされるような感覚に、ひぐぅ、と声が漏れる。
血液の混じった赤いトロついた液も引きずり出されたが、二人の目に入ることはない。
ふ、は、と息をつきながら骸は綱吉の横に手をついて、ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ、とゆるいピストンを開始した。
「ひ、ィあ、あひッ」
その先端が先程バイブがあたっていた前立腺のあたりのところにちょうど当たって、全身を震わせるような快感に綱吉は再び息を荒げる。
何度か立て続けにイったから、絶頂に近づくペースが早くなっているような気がする。
もう襲ってきている射精の波を感じて、綱吉は歯をくいしばった。
「も、ひゃ…、いやぁ…、ぅぐっ、」
「…ッはぁ、僕は、イイ ですよ、」
ふ、と笑みと快楽の狭間で顔を歪めて骸は更に律動を速める。
ずぱんッ、ずぱんッ、と腰を打ちつけるように強く穿ちながら、骸は上体を反らした。
はああッ、と色に濡れた吐息を漏らして、ひたすら律動の快楽を追い上げる。
「あッ!あぐッ!ふぅっ、おねが、ゆるひてぇ…ッ!あひっ!」
骸が下の快楽を追い求めれば求めるほど、それは綱吉の意識が飛びそうな快楽を更にきつく追い上げることになる。
何の容赦もなく打ちつけられる快楽に、綱吉は気が狂いそうで。
「も だ、らめ、ひ  ア゛―――ッ!!」
覆いかぶさる骸の身体が持ち上がるほどに大きく身を反らして、どぴゅどぴゅうっ、と白濁を吐いた。
「…ク……ッ、」
ぎゅうう、と陰茎の根元を締め付ける肛門の収縮に、骸は目を閉じて一気に湧き上がった射精感を何とかやりすごし、綱吉の腰をつかんで更にえぐるようなピストンを続ける。
「ひい――ッ!ひぃい――ッ!!」
「―――ッ」
死にそうな快感にビクンビクン跳ねる綱吉の躯を押さえつけて、奥の奥に陰茎を穿って熱い精液を注ぐ。
長くゆるやかに抽挿を何度か繰り返し、全ての精液を注ぎ終えたあと、ようやく骸はずるりと陰茎を引き抜いた。







廃人のようにぼうっと横たわった綱吉の髪を、骸は同じように横たわったまま撫でていた。
ひとりあそびをするように、髪の毛の感触を楽しみながら骸は呟く。
「もうここには来てくださいませんか」
当たり前だ。今回だって、学生証の件がなければ来るつもりはなかったのだ。
ぼうっとした眼差しを天井に向けたまま、頭の中で呟いてから綱吉はハッとした。
「――が、学生証!俺の…」
まだ返してもらってないのではなかったか。
そうだ、学生証。それを持たれたままだったのだ。
「ああ、やっとこちらを向きましたね。もう嫌われたのかと」
台詞の割にはクスクスとたちの悪そうな笑みを浮かべている。
ぎり、と綱吉は唇を噛み締めた。
油断できなさすぎる。本当にこの男が握ってる俺の弱みは学生証だけだったろうか―――
「あ……、」
そこまで思い至って、愕然とした。まさか今日のも。
(「ちゃんと録画もされてるんですよ」)
――最悪だ。

「別にまぁ、どうしてもというのであれば来なくてもいいんですよ。ですがそうなった場合僕が――」
「来る!来るから!!」
また来なければひどい目に遭わされる。そんな気がした。
来たら来たでひどいのだが、それ以上におそろしいことをされそうな気がした。
あられもない痴態を録画されていた。学生証も見られた。
ポストにチラシが入っていた時点で住所も割れている。
あちらが持つ脅迫の材料はいくらでもある。そこまで考えて綱吉は、ゾクリと背筋が寒くなった。
その様子に骸は、弓なりに目を細めて微笑んだ。
「…君は中々、勘がいい。好きですよ、そういう子は」
そして少し頭の回りきらないところも、愛しいですよ。
骸の得体の知れない笑みに、綱吉は心臓をわしづかみにされたような気がした。
やっぱり。応じなかったらシャレにならないこと、するつもりだったんだ。
僕はいつでもこの心臓を握りつぶせますよ、と笑われている気がした。

本当は、不特定多数の人間のポストにチラシを入れていたのであれば、完璧に住所が割れているともいえないのだが、そこまで綱吉は頭が回らなかった。
が、それは「普通は」の場合である。
「普通は」、チラシは不特定多数に配る媒体である。
自分のポストにだけ入っていたという事に気がつくはずもない綱吉は、無意識のうちとはいえ賢明な判断をしたといえただろう。

「クフフ……、君は、思ったよりもずいぶんいい子だったようですね」


おとがいをクイ、と上げられてゆるくキスを落とされながら、ぎり、と綱吉は拳を握った。




――くそ、絶対こいつ、楽しんでやがる。

どうしたって、あがききれない予感が漠然として、気持ちの持って行き場がなかった。

霧が濃く立ち込めた林で、出口が見つからないような、不気味さを伴って。







「お待ちしておりました」  終


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