ゆりむくつな
黒百合(2)
甘めですorz
砂糖まぶした骸さん苦手な人は逃げてオクレーー!
「じゃ帰りましょうか、ツナ君」
「あっ、うん、ちょっと待ってな〜」
用意を終えて立ち上がった隣の骸に、ツナはまだまだ机の上に散らかっているものをゴサゴサ鞄につめていた。
もうすっかり一緒に居るのが馴染んできた。今日も二人で一緒に帰るところである。
「なーなー、駅前に新しいカフェができたのって知ってる?」
「いいえ、もう開店したんですか」
結構前に宣伝をしていて工事中で、いつ開店するのかと心待ちにする女子も結構いた気がした。
「うんそうみたい!なんかほかの県でも結構人気のとこらしくて…」
ニッコニコ笑いながら鞄を持つツナに、ふふ、と笑みを漏らす。
「じゃあ早速、行ってみますか」
「うん!」
「この間用事があって少し待たせてしまったので、今日は何でも好きなものを僕がおごりますよ」
理由のない施し(奢り)は心理学的にも大抵警戒されるので、いつも何かしら理由をつけてアレやコレやとツナに甘い汁を啜らせる。
「ほんと?!やったぁあ!!」
それはなかなか成功しているようで、ツナは大喜びで骸の腕に抱きついた。
やわらかな感覚に、骸の心の中はもうデレデレである。
(よく頑張った。よく頑張りました僕、この子をここまで懐かせる事ができたなんて…)
一見おだやかに微笑んでいるように見えるが、見るものが見れば一目で顔が緩みまくっていると判る表情で、骸はツナの髪を撫でた。
「ねぇツナ君、……」
「ん?なに?」
何の疑いも迷いもなく見上げてくる瞳に、一拍おいて骸は首を横にふった。
「…いいえ、なんでも。行きましょうか」
「そうだね〜!」
甘すぎる雰囲気の余韻を残して去っていく二人を尻目に見ながら、少し離れた位置に座っていたスクアーロとマーモンが口を開いた。
「…ありゃ絶対モノにする目ぇしてたぜぇ……クラスの奴ら騙されてるがあの六道財閥の一人娘がこのぐらいで終わる筈が無ぇ」
「そうだね。結構あからさまなんだけど沢田もほかの奴らも気付けてないってのが笑えるよね」
「ま、触らぬ神に祟りなしだな」
「この後どうなっていくか見物だね…大体想像つくけど」
本当の事情が何となく判るものは、いつも口を閉ざしているものである。
開店したてのカフェはやはりかなり混み合っていたが、何とか座る席は確保できた。
座席ごとにスペースが区切られていて、まるでどこかの小さな館のようなロマンティックな内装である。
「うわぁあ〜〜、かっ、かわいいね」
席に座り注文を終えて一息。
ちょっと目をきらきらさせながらツナは周りを見回した。
「中々凝った作りですねぇ」
店内はキャラメルのような甘い香りで満たされており、テーブルの上に置いてあるシュガーボックスや窓の枠もアンティークのような凝った作りになっている。
「そういえば骸さん家もこんなのあったよね、何ていうかびっくりしたよ最初に家に行った時…」
「そうですか?母が趣味で揃えているだけですけれどね」
「ウチのお母さんもそういうの実は好きみたいだけど、なかなか手が出せないって言ってたよ〜」
ツナの母親である奈々もよく、店先でこういった可愛い類の雑貨を見ているが、本当に好みのものは高くて手が出せないらしい。
店先で見ていたような代物よりも、六道家にあったものは上等なものに見えた(というかそこらへんであまり見ないようなものだった)ので、母が欲しいものより数段金がかかっているのかもしれない。
「よかったらお母様と一緒にいらっしゃいな、うちの母ならきっと喜んでいくつかあげるかもしれない」
あなたのお母様も可愛らしい方ですからね、と呟くと、ツナはぶんぶんと首を横に振った。
「いやいやいや!そ、それは無いって!」
高価なアンティークをぽいと貰うなど、沢田家の習慣には無い。
クフフ、と骸は笑った。
でもねぇ、何かしたくなっちゃうから仕様が無いんですよねぇ。
(君の周りを僕のもので埋められたら…どんなに素敵でしょうね)
「お待たせいたしました、ハニーストロベリーシェイクと森のダブルベリーロールケーキのお客様」
「あっ、はい、」
ツナの前にそれらが置かれ、骸の前にはアップルマンゴーティーとフォンダンショコラ生クリーム添えが置かれた。
ふと相手を見やると、ぽかーんと口をあけてツナの目が骸のフォンダンショコラに釘付けになっている。
「…ツナ君のも一口もらえますか?僕のもあげますから」
「うんっ、うんっ!」
ぱぁあっと顔を輝かせて首を縦に振る。
(あぁ…、可愛いったら)
別にこんなフォンダンショコラなど全部あげたって構いやしない。が、それだと不審がられるのでうまく交換条件を出す。
しっとりとしたショコラの生地を華奢なフォークで割ると、中からトロリと蜜のようなチョコが溢れ出た。
「ねぇツナ君…、お菓子っていうのも、何ていうか淫靡ですよね」
「な…ッ!ちょ、またそういう事言って!」
話をするようになるまでは知らなかったが、この六道骸、かなり恥ずかしい発言の多い女子であった。
骸のことはふつうに好きだが、こういった発言の対応には非常に苦慮する。
そんなことを知ってか知らずか、そしらぬ顔で骸は生地にチョコをからめて掬い上げ、ツナの口に持っていった。
さぁお食べといわんばかりに、口元にショコラを近づける。
「っ…、」
先ほどあんな事を言われたせいで食べにくいったらない。
「ほらほら、欲しいんでしょう?」
愉しそうにショコラをちらつかせる骸に、ツナは歯噛みした。
食べにくい。けど…
「うう…ッ、」
けど、ふわぁーと香ってくるこっくりしたチョコの香りがたまらない。
とろーとしたチョコが生地にしみている様がたまらない。
んぁ、と観念して口をあけると、笑みのまま骸の目が心持ち見開かれたような気がした。
舌の上に、とろりと滑らかなチョコが乗り、口腔内に洋酒をまとった芳醇なチョコの香りがひろがる。
うっとりとするようにツナは目をとろんとさせた。
「おいひぃー…、」
骸もうっとりとツナを見つめながら、既に二口目をフォークに突き刺したまま自らの頬に手を添えた。
「美味しいですか…、」
「うん、これおいひいよぉ…」
「…ね、もっと欲しい?ツナ君」
「…いいの?」
「いいですよ、欲しかったらちゃんと欲しいって言って」
何をしてるわけでもないのに、骸の鼓動はどくどくと高鳴っていた。
「ほしいよぉ…、ちょうだい、ください骸さん」
(嗚呼……ッ!)
骸の頭の中でリーンゴーンと鐘が鳴る。何の鐘なんだか誰にも判らない。
二口めをツナの口のなかにあげながら、骸はツナの方の席に移動して体をあますところなくくっつけたくなる衝動を必死に抑えていた。
けれどもたまらない。
(この娘をもっと、僕の……、僕に…)
ツナは骸の寵愛を受けていると周りに知らしめたくて仕方が無い。
(もうそろそろ…いいですよね)
骸は、以前より考えていた言葉をようやく口にすることにした。
「ねぇツナ君、僕、君の事を親友って思ってもいいでしょうか」
「ふへっ?」
もごもごとフォンダンショコラを食べながら、きょとんとツナは骸を見た。
今更何を言っているんだろうか。もう十分に仲がいいのに。
ごくりと飲み込んでから、ツナは自分のロールケーキを骸用に少しとりわけた。ちゃんとクリームもフルーツもちょこちょことつけてあげる。
「もう骸さんは親友だと思ってたのに、そうじゃなかったの??」
しかしながら上手にとったと思ったはずの木苺が、切り分けた小さなロールケーキの欠片から落ちる。なかなか難しい。
「ああ…嬉しい、そうですよね。……ねぇ、でもツナ君」
なかなか木苺やブルーベリーをのせられずにいるツナの手に、助けるようにそっと骸は自分の手を重ねた。
そのまま少し身を乗り出して、じっと相手の瞳を見る。
「…夫婦には結婚指輪があるのに、親しい友達にはそういう証はないなんて、ちょっと寂しいと思いませんか」
「え…っ、そ、そうかな」
夫婦と友達を比べるのに無理を感じたのか、美人に見つめられてぎくしゃくしてしまったのか(案外ツナは面食いである)、ツナは一瞬動きをとめた。
「そうですよ。ときに深く親しい友人同士というのは、恋人や夫婦などより甘やかで魂において繋がりの深いものだとは、思いませんか」
「えっと……、」
そんなこと考えた事など無かった。
たしかに今、自分は骸とは他の誰よりも共に過ごすし不思議なほどに仲が良いのも実感している。
けれど……証?と一体どう話がつながるというのだろうか。
「単刀直入に言います。僕はねツナ君、君と姉妹<スール>の契りを結びたいんです」
「え……っ?!」
驚きに、ツナは瞬きした。
今更ながらに、重ねられた手のあたりが熱くなっているような気がした。
<姉妹の契り>とは、ツナたちの学校にある伝統的な制度のひとつである。
上級生であるお姉さんたちが、下級生である妹たちを導き互いに支えあう――ひとつの美徳を具現化したようなシステムで、ひらたく言えば上級生と下級生の生徒が一対一で親密なペアをつくり、学園に在籍する間何やかやとお互い干渉しあうというものである。鳥のつがい、めおとのようなものだと思っていただければいい。
その際、上級生はこれぞと決めた下級生の子にロザリオを渡し、それが契りの証となる。
しかしそれはたいてい…というか普通、学年を越えた者同士で交わされるものであって。
「むっ、むりでしょだって!年おんなじじゃん!」
「何言ってるんですか、どうせツナ君、姉なんていないんでしょう?」
まるでさみしい独り者のような言葉をもらい、ツナは頬をひきつらせた。
「た たしかにそりゃーいませんけどね」
骸さんに言われる筋合いは無いというか。
「でしょう?僕だって他学年に…君以外につくるつもりはありません」
ツナは知っている。
骸は上の学年からも中等部の子からも、姉妹申し込みを受けていたことを。
「だからさぁ…、同じ学年で姉妹なんて、聞いたことないしさ…骸さんだったら他にも…」
「同学年の姉妹の契りに関しては、僕が許します」
(な なんだってー)
どういった権力の持ち主だろうか。それともただジャイ○ンなだけだろうか。
「その点については、既に理事長に話をつけてありますので大丈夫です」
「理事長に話もつけちゃってるの?!すごいねそれ!!」
想像の範囲を越えた根回しに、ちょっとどころじゃなくツナは戦慄した。
「ねぇ…ツナ君……だめですか…?」
ツナの突っ込みなど全て押し流すような雰囲気で、ケーキを取り分けたフォークを握ったまま固まっていたツナの手首を、ゆるりと掴んで骸は自らの口元に持っていった。
ツナの瞳をまっすぐ見つめたまま、ロールケーキをゆっくり口に含む。
「僕どうしても君がいいんです。君は僕のこと……、どうしても、きらいなんですか…?」
「…っ、」
きらいなわけが無い。
ただ、ちょっと、色々とツナの認識を超えていて――
骸は戸惑うツナの手を祈るように両手でつつんで、誓うように唇を近づけた。
「お願いです。姉妹になって――」
ちゅ、と指先にくちづけを落とされる頃には、ツナは顔を真っ赤にして恥ずかしさから逃げるように目をぎゅうと瞑っていた。
「わかった!わかったよ!!なる、なるよ!なるから放してここお店――!」
「…いやです」
にこぉお、と満面の笑みをたたえて、ちゅう、と指先に唇を押し当てた。
君僕の顔に結構弱いんですよね、あとこういう恥ずかしい事にも。
骸は、負ける戦はしない主義である。
後日、教室で人目もはばからず骸は座っているツナの後ろに立って髪を櫛で梳いていた。
悦に入ったような目でフワフワの髪を梳く。
「ねぇツナ君、家では"骸さん"でいいですけど学校では"お姉さま"ってちゃんと呼んでくださいね」
「なっ、これ以上それを要求するっていうのーー?!同学年でおかしいから!」
「何言ってるんですか、そう呼ばないと姉妹ってわからないじゃないですか」
がばっと勢いよくこちらを向いたツナの前髪を、いとおしそうに指で梳く。
「わ…っ、わかんなくていいよ別に…っ、」
触れられる指先にどぎまぎしながら腰をひかせようとするが、骸はそれを許さない。
「よくないです。君は僕の寵愛を受けていると周りに知らしめたくて仕方が無いんです」
「もうほんと何の含みもないねその台詞!骸さんが今まで色々抑えてたんだなってのがよくわかった!!」
「本当ですか?わかってもらえて嬉しいです!」
無邪気に顔を輝かせる骸に、心の中でツナは泣きながらウワァーイと叫んだ。
(この人いろいろ本気だー!)
「そうそうっ、これも君に渡さないと」
きらきらした笑顔でイソイソ取り出したるは、華奢だけれども繊細な細工が入ったロザリオである。
珠の部分はちいさな真紅の玉<ギョク>のようなものでできていて、鎖の部分はけぶるような真鍮のような、アンティークを思わせるロザリオ。
「あっ、アレッ?!上級生に姉がいたわけでもないのにどうしてロザリオなんか持ってるの骸さん?」
「今まで他人が使っていたロザリオなど君にあげるわけがないじゃないですか。イタリアから特注で取り寄せました」
「すごいね!」
もうスゴイネとしか突っ込めない。
「さぁ…、ツナ君…」
新婦を見つめる新郎よりも幸せそうな表情で骸はツナの首にゆっくりとロザリオをかける。
その一部始終を見ていたクラスの生徒たちからは、きゃああだとかいやぁあだとか黄色い声があがっている。
何せ上級生からも下級生からも姉妹の申し込みが絶えなかった美貌の令嬢が、あろうことか同じクラスで隣の席のツナに姉妹宣言をしていた上にロザリオをかけようとしているのである。
芸能人が一般人相手に婚約指輪を渡して結婚の申し込みをしている、ぐらいの勢いでセンセーショナルな光景であった。
「ほら…ちゃんと呼んでツナ君…、ツナ」
「ちょ…っ、べつに今呼ばなくても…」
「駄目。呼んでツナ君…」
あわあわあわと心の中でツナは泣いた。何を言っても届かない気がする。
「ほら、呼ばないとあとでひどいですよ」
とうとう脅しにかかった。
ひどい、というのがどうひどい目なのか判らないが、有無を言わさないオーラにツナはぎゅうう、と脚のうえに置いた拳を握った。
「ぉ……ぉ、おね、…おね…、」
「なんですか、ちゃんと大きい声で、ほら」
「おね…っ、おね…っ、おねえちゃ…ん」
真っ赤な顔でギュウウ、と拳をにぎる。恥ずかしすぎる。もうほんと恥ずかしすぎる。
「か…っ、可愛いーーー!!」
"お姉さま"と呼ぶのが恥ずかしくて思わず"おねえちゃん"と呼んでしまったのが逆にツボってしまったらしく、感極まったようにギュウウと骸はツナを抱きしめた。
「ぐ ぐぇえ」
「ああ…、やっとここまでこれた……!!離しませんからねツナ君…!!」
恍惚とした表情で骸はツナを抱きしめる。もはや何も隠されてはいなかった。
いいにおいのする胸元に両腕で抱きしめられながら、ツナはそれをやりすごすかのように目を閉じていた。
何かが違う、何かが違う、と脳内ではけたたましく警鐘が鳴っていたのだが、どうしようもできねーよこの人誰も止められねーよーと一部冷静な泣き声が脳の片隅で響いていた。
その後自分の財閥に骸はツナを引き込み本当の契りをかわすことになるのだが…その伝説がまことしやかにのちの学園に伝わっていくのは、また何年か後の話である。
<終>
結局エロなくてすみません…orz
"エッ そんなとこで終わるの?!"みたいな感じですみませ…