ゆりむくつな

  貴女 プチ後日談  


途中から雰囲気シリアスじゃなくなる
ピュアなままの骸さんでいさせたかったら、むしろ読まないほうがいいです




「ねぇツナ君、僕は"気づかない事、知らない事は罪だ"と思っていました」
何度目かのツナの訪問。すっかりロシアへ渡るのも慣れた頃、骸の部屋で遅い朝食を二人でとっているときにそれは唐突に告げられた。
「骸さん…、」
食べる手を止めて、ツナは眉を下げて相手のほうを見る。
たしかに、苦しい想いをさせていたのだ。
気づかなかったゆえに。気づけなかったゆえに。
今それを聞いて、心に生まれるのは、…罪悪感。
「…何て、言ったらいいか、わからないんだけど……ごめん、ごめんね」
苦しそうに紡がれるそれに、しかし骸は首を横に振る。
「違うんです。けれど僕は同時に、こうも思っていたんです」
カチャリとコーヒーの入ったカップを揺らす。
水面の揺れるさまを見るのは、蝋燭にともした灯火を眺めるのと似ている。
「"『知らない』という事を勝手に罪にしてしまうのも、また罪"なんじゃないかと」
ツナがゆっくり瞬きする。意味をかみ締めるように。
「君が知らなかったのは、僕が欠片も伝えなかったからに他ならないんです。むしろ僕は、気づかせようとしていなかった。それなのに、伝えられないから辛いだなんて、お門違いというか…都合がいいというか、ぬるいというか」
「骸さん」
「……」
自嘲気味な言葉を続ける骸を、静かにツナは制した。
そんなことを言っているけれど、それでも。
それでも、その時はそうする以外どうにもできなかった、やるせなさが骸にはあったはずなのだ。
「…いっそ全て壊れてしまえばいいと思った時もあったんですよ。叶わないのであれば、中途半端に関わり続けるのは正直、地獄なんです。だからといって全てを打ち明けて断られた後、変に気を使われるなんて真っ平だった。だったら、もう欠片もかかわりたくないと思った」
ツナがうつむき、顔をゆがめる。
何だか、正面を向いて拒否されたような気がしたのだ。
「……そんなこと、言わないで よ」
実際に、欠片もかかわらない期間が自分たちにはあったのだ。
頭をおとしていると、ふっと横に影ができた。
ふと顔をあげると、さっきまで向かいに座っていた彼女が柔らかに佇んでいる。
「……隣、座ってもいいですか」
コクリと頷くと、カタリと椅子をひいて間近に座り、ツナの肩にぴたりと頭を寄せてきた。
「どうしても一人を選ばざるを得なかった場合の恋でも、「片想い」なんですよね。…恋とすら呼ばせてもらえないんです」
ぎゅう、とツナは膝の上の拳を握った。
骸はただ静かに言葉を続けているだけなのに、ツナのほうが泣きそうだった。
「…僕が一人で葛藤していただけなんです。ただそれだけの話だ。…でも君が、会いに来てくれて、僕は、どうしようもない渇きを思い出してしまって」
骸がその拳にそっと手を重ねる。
あたたかい、とツナは思った。
肩からも、じんわりと心地よい熱がツナに伝わってくる。
「…君に散々探されて叱られて、…泣かれて。
初めて、僕は一人じゃないんだって思ったんです。君が、ちゃんといてくれたんだって」
「そう思ったら、君に全てを告げても構わないと思った。…たとえ、どんな結果になったとしても」
ツナが空いた片手を骸の頭にのせて撫でる。骸が心地よさそうに目を閉じた。
「…ありがとう骸さん、ちゃんと話してくれて」
「君があの時、聴いてくれたからです。そうじゃないと僕はいつまでも、僕だけだった」
「…そうでも、ないよ」
思い出すかのように、ツナは視線を遠くへうつした。
だって、あの時自分は既に。
「え…っ?」
いつもはあまり見られないキョトンとした骸の顔が至近距離にある。
ああきれいだな、と、ツナはぼんやりと思った。
まず目が麗しい。濃いブルーグレイの瞳が長い睫に彩られて、巷で噂のウン十万するドールのようである。
すっと通った鼻梁も、形の整った唇も、ビスクドールみたいな肌もなめらかな輪郭も。…あと、さらさらの黒髪も。
ひとつひとつのパーツが絶妙に整ったこの綺麗な顔に、えへへ、と照れ隠しをするようにツナは笑った。
自分、面食いだったんだなぁと改めて思い、さらにバツが何となく悪くなる。
ごめんごめん。決して顔だけで好きになったわけじゃあ、ないんだよ。
…多分。

しかし件の彼女は、うっとりと目を細めていた。
「ああ、ほんと、この可愛いのが自分のだなんて」
「えっ?」
一瞬耳を(いろいろな意味で)疑うような言葉が聞こえて、ツナは思わず聞き返した。
しかし、それにも構わず骸は恍惚とした表情のまま続ける。
「君どうしてそんなに目がおっきいんでしょうね。なんていうかその無垢な…庇護欲と嗜虐心を同時にそそるような…いうこと聞いてない甘茶の髪の毛もふわふわして本当可愛い。いちいち身体のつくりが華奢で…君のその薄い腰や太腿がたまらないんですよね。その弱そうな手足をおさえつけて思うままに蹂躙するなんてもう、考えるだけでゾクゾクして…」
「そっ、そういえば朝の新聞まだ取ってきてなかったよね!!とってきます!!!」
「ああ…っ、別にそんなのいいじゃないですか」
最後のほうは聞こえなかった。聞かなかった。
(こ こええーー!!!あいつ趣味おかしい!!表現おかしい!!)
ものすごいスピードで新聞受けに向かいながら、ツナは戦慄していた。
好きとか何とか思っていた割に、素で骸の趣味とか人格とかを疑ってしまった。
そういえば今まであんまりゆっくり会ってなかったからだろうか。
最近色々耳を疑うような妄執的な言葉が彼女から見え隠れしている。
(…いや、でも、あれは、多分)
"疑う"じゃなくて、あれは彼女が今まで押さえつけていたものの一部に過ぎないのだろう、という予感がなんとなくする。
「まぁ…でも…、うん……」
小さく笑って、ツナは新聞をとった。
ここでひくぐらいなら、最初から付き合ってないのだが。


朝日はとっても爽やかなのに、今から戻る食卓は爛れたっぽい空気が漂ってるなーと思うと、思わずツナは再び笑ってしまった。
まぁ、爛れててもいんじゃね?と思うぐらいには、ツナも大きくなっていた。


<おわり>

ほんとにピュアだな、マトモだな、って思う人がまともな中でキティな発言をすると、アブノーマルっぽさ度が一気に跳ね上がって危険に見えますね

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